第8話中島香織side

 

「あら、パパの言う通りじゃない」


「ママまで!」


「だって、貴女、向こうの両親から嫌われているんでしょう?」


「嫌われてません!」


「結婚を反対されてるって事は嫌ってるって事よ。バカな子ね」


「む~~~~~~っ」


「婿養子はママも大賛成よ。貴女の性格じゃあ、あちらの御両親と上手くやっていけっこないもの」


「そんなの分かんないでしょう?」


「分かるわよ」


 私は今、ママの経営するエステサロンに来てる。

 結婚式の為に、手入れをして貰ってるところ。


恋敵前妻は美人だったんでしょう?」


「……思ったよりマシってだけよ」


「しかも良妻賢母だっていうじゃない」


「私の方が若くて可愛いもん!」


「もうすぐ三十でしょう」


「まだ二年ありますぅ!ママの意地悪!!」


「結婚を急ぐからこうなるのよ。既婚者以外にだって良いのがいるでしょう」


「だって~~~、パパの持ってくる見合い話って良いのがいないじゃない。それに人の物ってそれだけ魅力的に見えるのよね~~っ」


「ママには香織が結婚に焦って慌てたようにしか見えないわ」


「う!」


「図星ね」


「だって……友達みんな結婚してくんだもの」」


「貴女のお友達の大半はで結婚していくのよ」


「それはそうだけど……」


 ママって変なところで鋭いのよね。

 パパとは反対。


「ママだって彼を『イイ男』だって言ってたじゃない」


「そうね、その通りね」


「その後に『イイ夫にはならないわね』って貶してたけど」


「あら、本当のことよ。ママの勘は当たるの」


「彼、会社じゃ『イクメン』で有名なんだよ?」


「本当の『イクメン』で『愛妻家』なら妻子に隠れて浮気なんてしないわ」


「ママッ!私達の愛は本物。浮気じゃないの!」


「はいはい」


 ママは私の手をマッサージしながら楽しげに言う。


「彼がイイ夫になるかどうかは兎も角、面倒な姑や舅がいない方が楽なものよ。ママ達も向こうの御両親に気を遣うのは真っ平だもの。秀一君を囲い込んでしまえばいいじゃない。パパはその気よ」


 うふふふ、とママは笑う。


 囲い込むねぇ。

 それってパパとママ達と一緒に暮らせってこと?新婚なのに?実家だとイチャイチャしにくいんですけど……。


 それにしてもママはパパの何処が良くて結婚したんだろう?

 特に美形って訳じゃないし……。ママ美人だからモテたはず。


「ねぇ、ママ?」


「なに?」


「なんでパパと結婚したの?」


「急にどうしたの?」


「う~~~ん、なんとなく?気になって……」


「パパがママにプロポーズしてきたから結婚したに決まっているでしょ?」


「あ~~~、そういうことじゃなくて。結婚の決め手というか。どこに惹かれたのかとか」


「お金よ」


「え?」


「パパ家は資産家だったからよ。それと、パパがと分かったから」


 ママ……。

 夢がない。

 現実過ぎてつまんない。






 お腹が目立たないうちにと早めの式を挙げる事になり、マジにちょっと急いだ。

 結局、パパとママの希望通り。

 秀一は婿入りして、彼は「中島秀一」となった。

 流石に同居は勘弁して欲しかったので、実家の近くのマンションを購入する形を取った。因みにマンションはパパからの結婚祝い。


 会社の同僚は「略奪婚」って陰口を言うけど、所詮は負け犬の遠吠えよ。

 私がパパの娘だって事は結婚式でバラしているから表立って攻撃される事はなかった。


 もっとも陰口が酷くなる前に退職したけどね。


 


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