第32話浅田理事長side

 なれあい、というべきか。

 それとも学園という狭い世界の延長と勘違いした結果か。


 多分、全部だろう。


 俺達の常識は一歩外の世界に出ればそれは「非常識」と呼ばれるものなのだった。

 ……ただ、それだけのこと。


 勘違いも甚だしい。

 少し考えれば分かる事なのに。

 なのに……。

 俺達はそれを外の世界でも通用すると考えた。いや、俺達の場合は無意識だった。だから余計に質が悪いともいえる。俺達の常識が世間にとっては「非常識」であることを、俺達は、考えもしなかった。


 学園だけで通用する常識。

 友人同士だけで分かり合える常識。


 そんな狭い世界だけで通用していたものを、俺達は外の世界で何の疑いもなく実行してしまった。

 アホとしかいいようがない。

 社交界で爪弾きにされるはずだ。

 旧家の連中を「頭の固い奴ら」だの「柔軟に考える事が出来ない化石」だの「保守的すぎる老害連中」だのと陰で嗤っていた。バカなのは俺達の方だった。名家が俺達を相手にしないのも当然だったんだ。

 そりゃそうだ。

 常識が通じない、話が通じない、そんな連中、成り上がりであろうとなかろうと関わり合いたくない。


 バカだ。

 俺は本当にバカだ。


 アホで馬鹿だ。


 鈴木の元妻。

 伊集院家の令嬢に謝罪したい。

 だがそれは許されない。

 伊集院家は浅成学園の関係者との繋がりを断ち切っているし、その前に伊集院家と懇意にしている家は俺達を絶対に近づけたりしないだろう。


 謝罪して終わる話じゃない。


 岸の言う通り、俺は足掻く。

 マイナスからのスタートだ。

 この学園をこのままにはしない。

 生まれ変われるとしたら今しかない。

 せめて地に落ちた学園の評判だけはなんとかしなくては。


 今まで流されてきたツケが回ってきた。

 それだけのこと。

 それでも俺は足掻くだろう。

 せめて、そうすることが俺の唯一の罪滅ぼしだから。




 そしてそれは十年経った今も続いている。



 新学年になった俺は、校舎の二階から下を見下ろしている。

 新入生達が真新しい制服に身を包み、期待に胸を膨らませてこれから三年間を過ごす学び舎を見上げていた。

 そんな彼等を見ながら俺は思うのだ。

 ああ……俺も十数年前はああだった……と。


 だがもう戻れないあの頃を俺は一生忘れないだろう。




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