第33話元夫の娘1

 今、元夫のことで密かに噂されている事があります。


 彼の娘が両親の母校浅成学園に入学できない事態に陥っているというものでした。

 学園に入学できないこと自体は特に問題ではありません。入学試験で落ちている以上は仕方のないことです。

 問題は、元夫の行動。

 なんと彼はお金を積んで娘を学園に入学させようとしているというのです。

 どうやら元夫は母校の浅成学園に多額の寄付をしているらしく、その見返りとして娘を入学させたい、という事のようです。お金を積んで入学させるなど言語道断ですが、金にものを言わせて圧力をかけてくる家もある事は確かです。そんなことで入学しても意味ないでしょうに。学園側はそんな鈴木家の圧力に屈することなく、丁重に断っているという話でした。

 しかし困ったことに、どうやら元夫は娘の入学を諦めていないようです。学園側としては、迷惑以外の何物でもないでしょう。


 なにしろ今、浅成学園は過去の所業を反省して真の進学校に生まれ変わろうと奮闘している最中なのですから。そうでなければ近隣の孤児院に寄付や出資をしたり、チャリティー活動なんて始めたりしません。ボランティア活動を積極的に執り行ってもいますし。そもそもお金でどうにか出来るものではありません。

 選りすぐりの学生達が受験戦争に勝ち抜いて入学するのですから、お金でどうこうできるものではないのです。今の浅成学園はお金さえ払えれば誰でも入れるという学校ではないのですから。

 お金や家柄で入れる学校ですらなくなってきています。

 生徒の品格を重視し始めているのです。学力だけあってもダメなのです。入学してくる生徒の学校生活、将来を見据えた教育を心がけているのです。当然、受験生の品格を見て選んでいる筈です。


 虐めの首謀者だった過去を持つ学生なんて論外です。


 私が理事長でしたら、そんな過去を持つ学生は入学させません。そんな生徒達には即刻退学してもらい、別の学校へ転校していただきます。当然です。



「鈴木氏は娘の事を何も知らないのだろうね」


 シオンは私にコーヒーカップを渡してくれながら、そんなことを言いました。


「何も知らないからこそ、娘がどうして不合格になったのかが理解できないんだ」


「そんな事がありますか?」


「こういった事は被害者が訴えないと問題にならないからね。学校側も把握していたとしても問題にならないように対応するくらいだ」


「それは一体……?」


「虐めを無かった事にするのは学校側の手口だからね。被害者の大半は泣き寝入りだ。虐められた生徒の中には転校していった者もいたようだからね。生徒の家族が学校を訴えたとしても、学校側は知らぬ存ぜぬで通すのが通常だ。学園側も虐めた生徒に注意くらいしかできないからね。そうなった場合、更に虐めが酷くなる危険性がある」


「だから、虐めの事実そのものが無かった事にしたんですか?」


「それもあるだろうね。虐めが酷くなって暴力沙汰になったら、と考えるとね。それに虐めを苦に自殺でもされたら責任問題だ。学校側としては極力そういった事態は避けたかったんじゃないかな」


「そうですか……」


「だから鈴木グループの専務夫妻が自分の娘の事を全く知らなくても仕方のないことだ。専務は殆ど日本にいないしね。現に鈴木家の息女は試験を受ける前から不合格が決まっていたようだ」


「浅成学園の方が鈴木家の息女について詳しく知ってそうですわね」


「私立と公立の違いはあっても同じ業界だ。その辺は浅成学園の方が詳しいだろうね」


 シオンの話を聞いた私は何となく納得しました。





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