第31話浅田理事長side
結局、この事に関して相談できたのは岸だけだった。
鈴木本人に聞く訳にはいかないし、かと言って別の友人達が知っているとも限らない。
俺に現状を教えてくれた岸にしか相談できなかったとも言える。
「鈴木は知らないだろうな」
「そう思うか?」
「ああ。知っていたら彼奴のことだ。何らかの手は打っていただろうさ」
岸の返答に少しホッとした。
確かに岸の言う通りだ。
知っているのなら鈴木なら何らかの行動をしていただろう。俺達に相談した筈だ。
「それよりも浅田。お前、もう鈴木達と交流するのは止めろ」
「は?」
「これで分かっただろう?鈴木達と親しくすればするほど大変なことになる」
「……」
「ただでさえ、俺達は社交界で爪弾きにされているんだ。これ以上、鈴木達と接するのはリスクが高すぎる」
「それは……。だが……」
「友人としての忠告だ。なにも会ったり話したりするなと言う訳じゃない。最低限の付き合いに収めるべきだと言っているんだ。そうでないと取り返しがつかなくなるぞ?」
岸の言う通りだった。
「まあ、俺の病院も鈴木家と懇意だからな。人の事は言えない。だからな、仕事としての付き合いしかしないようにしている」
「岸……」
「お前もさ、薄々気付いてるんじゃないか?いや、おかしいと思ったことはないか?自分がそうそうに理事になったのを変だと考えなかったか?」
そうだ。最初は父親から理事の座を受け継いだ時は驚いた。早すぎる、と思った。
「その顔は心当たりがあるって顔だな」
「ああ」
「俺も同じさ。医者になって直ぐに理事長にされた」
「え?」
「人によっては親バカが極まったと思われているがな。本当は逆だ」
「ぎゃ……く……?」
「……俺が何か問題を起こしても良いようにしてあるんだ。ははっ。確かに病院の理事長なら謝罪会見に出る必要はないからな。テレビで頭を下げる事になるのは院長までだ。仮に理事の俺が表に出る事態になったとしても精神疾患とかで逃げ切るつもりだろう。名ばかりの理事だったとでも言っておけば問題ない。だがな、お前の場合は少し違うと思うぞ。恐らくだが、十年以内に理事を退陣させるためにな。そのための仕込みとしてお前を早々に理事にしたんじゃないのか?」
十年以内の退任。
そんなに早く? いや、十分ありえる未来だ。俺の父親は合理的だ。利益を生みださないとなれば息子の俺でも切り捨てる。学園を醜聞から守るためにもそうするしかないと判断すれば絶対に動くだろう。
醜聞の原因。その世代と共に切り捨ててしまえばいいのだから。
恐ろしいくらい残酷で冷たい考えだが、強かな考えだ。
「トカゲの尻尾切りと言うんだろうが、な」
岸はそう言って力なく笑った。
「俺は無理だがお前ならまだ足掻ける。ギリギリまで足掻くのも悪くないさ。俺は出来なかったがな」
そう言って岸は俺の肩を叩き、去っていった。
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