第17話浅田理事長side

『親しくなって自分の恋人を横取りされたらたまりませんから』


『現に略奪された子がいましたからね。それを見ると……ちょっと友達にはなれませんよね。ええ、確かに彼女とは同じクラスですよ。話しかけられたら会話だってしますし、挨拶だって普通にします。だからと言ってそれで友人とは言いませんでしょう?友達を選ぶ権利って私達にだってありますよね?』


『ああいう手合いは、婚約者がいようと恋人がいようと関係ないでしょうから』


『現に彼女が理由で破局した人は結構いますよ?』


『学園で婚約者持ちは少ないですからね。でも口約束していた人も少なからずいるそうですよ。まぁ、飽く迄も噂ですけどね』



 女子生徒の中でも評判が悪かった彼女は男子生徒にもそれなりに敵がいたようだ。今回の事件が表沙汰になった場合、女子生徒の今までの行動を余すところなく公表するとまで言っている。友人が女子生徒のせいで落ちぶれた者もいたらしい。知らなかった。調べてみるとその生徒は転校していたのだ。一身上の都合で、となっている。恐らく彼女が関係して言っているのだろう。転校先は海外としか分からない。今更親御さんに当時の事を聞くのもヤボというものだ。もしかすると何も知らないのかもしれないからな。ここはそっとしておくのが一番だろう。



 ただ、問題は……。




「冗談じゃないわ!何で私が攻められなきゃいけないのよ!?悪いのは私を刺した男でしょう!!」


「でもね、めぐみ、相手の御両親は裁判になっても構わないって言っているのよ」


「だからなに!?どうせこっちが勝つわよ!」


めぐみ……」


「私は絶対に示談なんてしないわよ。訴えてやるわ!」



 威勢のいいことだ。

 病院の室内に響く声に耳が痛い。彼女は自分の立場を理解しているのか?それとも刺された被害者という観点で物を言っているのだろうか?

 まあ、それなら理解できる。

 なんだかんだ言って先に暴力を振るってきた方が悪い。しかも男が女に、だ。自分が優位に立っていると理解していなければ、ああも強気にはいられないだろうな。


 女子生徒とは違ってご両親は常識人のようだ。

 これが娘にとって、ある意味で不利になる事を理解している。だからだろう。今も娘に被害を取り下げるように説得している。裁判になれば娘の行動が表にでる。というよりも、相手側の弁護士は確実にソコを突いてくるのは明白だった。自分達が調べただけでも相当だ。いや、氷山の一角に過ぎないと漠然ながら母親は確信している様子だ。だから必死なんだろう。穏便に事が収まれば、娘の非常識な振る舞いは表沙汰にならずに済む。


 それだけではないな。


 加害者は将来を有望視されたスポーツの特待生だ。

 ただの学生ではない。スポーツ選手として数々の大会に参加して成績を収めている。オリンピックだって夢じゃない。



めぐみ、お願い。貴女のためなの」


「なにが?お母さん、おかしいわよ?なんで被害者の私が泣き寝入りしなきゃいけないの!」


「相手の弁護士さんが未成年同士だからって今回は話し合いだけで終わらせると言っているのよ。相手の男の子の御両親も示談ですめば良いって言ってくれているし……」


「ふざけないで!言っとくけど、被害者は私なの!傷害で訴えてやるんだから!!」



 これでは説得は無理だろうな。見ているだけで解る。どれだけ諭したところで彼女の耳には届くまい。裁判になって無傷でいられると思ったら大間違いだ。それを彼女が理解できるとは思えない。もしも手酷い被害者面ができるとしたなら彼女は間違いなく法廷に立てば針の筵となるだろう。学園の生徒は加害者の男子生徒のために署名運動まで始めているし、保護者会でも「女子生徒の態度に問題あり」と一致している。要は、被害者に誰も同情なんてしていない状況だ。自業自得だと言う生徒しかいない。



「しっかりしなさい!このまま訴え続けたら大変なのよ?貴女の将来が台無しになるわ!」


「ないよ!相手はお金でもみ消そうってこと!?」


「そんな訳ないでしょ!!」



 金だけの話しじゃない。寧ろ、金で解決するならそうしたい。目の前で怒鳴っている女子生徒以外の全員の気持ちがそれだろうと思う。女子生徒と母親の会話は平行線のままだった。母親から「娘を必ず説得します」とまで言われて、その日はそのまま帰る事になった。


 翌日、更なる修羅場が待ち構えているとは思ってもみなかった。




「はぁぁぁぁぁぁ!? 妊娠!!?」


 修羅場の第二弾がやってきた。



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