第16話浅田理事長side

 被害者の女子生徒と加害者の男子生徒は付き合っていた――らしい。

 これは飽く迄も、男子生徒の言い分を聞いただけの情報なため、どうとも断言はできない。が、どうやら二人は所謂「恋人同士」であったようだ。

 しかし女子生徒が、自分だけでなく他の男とも関係を持っていた事が発覚して揉めに揉めたようだ。そうだろうな。しかも女子生徒は男子生徒をあろうことか「ストーカー扱い」しだした。「付き合ってなんかいない。たまに悩み相談を受けていただけの間柄」だと言い始めたらしい。完全な矛盾である。男子生徒の主張を信じれば、彼らは「恋人同士」ということになるのだろうし、更に二人の間には肉体関係があったようだ。なのに相手から一方的なストーカー扱いされる……恐ろしいにも程がある。


「俺は本気だったんです。卒業したらプロポーズするつもりでいたし、後ろ指を指されることなんて一つもしてない。なのに……。彼女だって将来は子供は三人欲しいとか、家は郊外がいいねとか、色々言ってたんですよ?俺は……俺は……一緒になるつもりで一緒に……、ッ!!」


 そこからは泣き崩れるあまり言葉にならなかった。

 流石にそのまま彼の言葉だけを鵜呑みにする訳にはいかないが、どうやら男子生徒のクラスや部活仲間の間では二人が付き合っているのは有名だった様だ。 

 聴き取り調査をした結果、この男子生徒の発言に対して大半のクラスメイトや同じ部の者は同意していた。というより、男子生徒が悩んでいる様子を何人もの生徒が目撃していたし、二人が口喧嘩している場面を目撃していた。最初はただの痴話喧嘩だと思っていたらしい。なので、今回の一件を知り男子生徒を知る学生の大半が彼に同情的だった。女子生徒への不平や不満を漏らす者も生徒の中にはいて、どうやら被害者の女子生徒の方が問題行動を起こしていたようだ。



『一見、優等生ですから。殆どの教師は実態を知らないんじゃないですか?』


『特待生で成績も上位から落ちた事ないから教師も問題視しなかった筈ですよ』


『問題行動が今まで露見しなかっただけの話しだと思います』


『あんな女のせいで彼奴の将来がダメにされるなんて……!』


『彼だけじゃない筈ですよ?彼女が付き合っていた男子生徒は。結構、有名だったんで』


『これを機に徹底して調べあげた方が賢明かと思いますよ?被害者は彼だけじゃない筈ですから』



 被害者の女子生徒の評判は最悪だった。しかも隠れビッチとして噂されているらしい。なんとも嫌な感じだ。

 女子生徒は一貫して「自分は被害者だった。無関係」と言い張っているらしいが、何故言い切れるのか本当に謎である。あれだけ大っぴらに別れ話を拗らせた末の傷害事件だ。「加害者男の被害妄想」「付き合った過去なんてない」「つきまとわれていただけ」「勝手に彼氏面されていい迷惑だった。気持ち悪い」と言いたい放題だった。彼女に付き添っている両親の方が恐縮していた。どうやら学校での娘の評判を知ったらしい。あまりにも酷すぎる悪評に最初は「何かの間違いです」と言っていた。娘の汚名を晴らすために親だと知られないように生徒に確認をとっていたようだが、その結果は芳しくない。

 この件を発端に、次々と明らかになっていく娘の実態は中々に悲惨なものだった。

 それはそうだろう。

 娘が付き合っていたのは加害者の男子生徒だけじゃない。

 彼女は数人の男と並行で付き合っており、更に幾人もの男と体の関係まであったそうだ。しかも相手の男は全て学園の生徒だった。誰に入れ知恵されたのやら、優等生の皮を被るのだけは長けていたようで、今まで相手の男に悟らせなかったのだそうだ。周囲は知っていたようだが、男女間の問題として放置しているケースが多かった。まあ、そうなるだろうな。更に調べると被害者の彼女は親しくしている女子生徒が皆無だった。男友達は多かったが。


 被害者の女子生徒の学内での男漁り。

 それは女子生徒の間では相当有名だったようだ。彼女は女子生徒からは蛇蠍の如く嫌われていた。



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