~一度目~

第1話再会1

 後方から名前を呼ばれ、振り返るとそこには見覚えのある男性が唖然と立ちすくんでいました。


「鈴木……様?」


 二十年以上前に離婚した最初の夫。

 鈴木晃司様がいたのです。


 ただ随分と面変わりされていましたので直ぐには分かりませんでしたわ。

 スマートだった体形は中年太りのせいでしょうか、お腹周りが少しだらしない体型になっていました。ふさふさだった髪も今は後退し薄くなり数年後には更に寂しい状態になる事は間違いなさそうですわね。そして何よりも驚いたのは『顔』です。眉間の皺のせいで10歳ほど老けた印象を与えていました。

 風貌は変わってしまいましたが、こちらを見つめる眼光の鋭さは以前のまま……いいえ、昔よりも老いて鋭さを増していました。

 この迫力ある眼は彼の特徴でしょう。この眼がなければ私も元夫だとは分からなかったに違いありません。


 ただどうして彼がここに居るのかが謎です。



「お母様!」


 娘が私の元に駆けてきました。

 今日の舞台衣装のままです。バレエ発表会で『白鳥の湖』で主役のオデット姫を披露しました。衣装を着替えないで来たので周囲の注目を集めていますわ。


「どうでしたか?私のオデット姫、素敵でしたでしょう?」


「ええ。とても良かったわ」


「先生も褒めてくださいました!これなら入学は間違いなしだと仰ってましたわ!」


「ふふふ。そうね。良く頑張ったわね」


 娘は非常に上機嫌になっていました。

 発表会の出来の良さだけだではありません。数週間後に行われる入学試験の合格が間違いないからでもあるのです。


 3歳から始めたバレエにすっかり夢中になった娘は日々努力を惜しみませんでした。バレエ教室の先生は現役時代は有名なバレエダンサーで、スパルタといいますか、とても厳しい教え方をする先生です。世に名だたるダンサーを輩出してきている事で有名です。私としては娘をダンサーにするつもりでバレエを習わせた訳ではありません。娘が偶然興味を示したので軽い気持ちで通わせることにしただけですわ。しかしいつの間にか娘の中でバレエに対しての強い情熱が芽を出していました。親馬鹿を抜きにしても娘はバレエの才能があると思います。舞台で可憐なオデット姫を見事に演じ切り、鳴り止まぬ拍車はその事を証明していたに違いありません。



「……お母様?……その子は一体……」


 唖然と呟く元夫の姿に、思わず笑いが出そうになりましたわ。

 娘も鈴木様の存在に気が付いたのか、「お母様、このおじ様はどなたですの?」と尋ねてきました。


「お、おじ……さま?」


 ショックを受けている鈴木様には申し訳ないのですが、娘から見ると貴男は十分「おじさま」ですわ。

 なんだか楽しくなってきましたわ。

 私は、微笑みながら元夫に語り掛けたのです。



「この子はの椿ですわ。椿、こちらの方は鈴木グループの専務でもある鈴木晃司様ですよ」


 私が簡潔に説明すると、娘は満面の笑みで挨拶をしました。


「まあ!な!初めまして鈴木様!私、東雲椿しののめつばきと申します。以後お見知りおきを」


 もうすっかりレディね。

 挨拶も完璧だわ。



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