第4話浮気相手からの謝罪2

 

 私と女性早川陽向との間に微妙な空気が流れていました。

 個人的には早く実家に帰りたいのですが、彼女がそうさせてくれないのです。この方は何がしたいのでしょうか?


 疑問に思っていると、運転手が彼女にとんでもない事を言い放ったのです。


「早川様、そのような事をなさったところで何の解決にもなりません。例え、お嬢様がお許しになったとしても早川様自身が背負った負債が無くなる事はありません」


「なっ!?」


「大方、お嬢様に直談判なさって慰謝料を無かった事にしてもらうつもりだったのでしょう。それとも減額を願い出ようとなさっているのですか?」


「……」


「どうやら図星のようですね。そういう話は既に話し終えている筈です。早川様がお嬢様に謝罪するの事自体は特に問題はありませんが、お嬢様に対して理不尽な要求をする事は筋違いという物です」


「…………ふ、ふざけないでよ!あんな金額払える筈がないでしょう!!横暴だわ!!!」


「当然の金額です」


「どこが!?五千万よ!?ありえないでしょう!!」


「……寧ろ、安いくらいですよ」


「はぁ!?何を言ってるのよ!!」


「自覚がないようですが、早川様。貴女は一つの家庭を壊し、一つの企業に損失を与えた。これは貴女だけの問題ではないんですよ?もはや個人の問題ではありません。早川様一人の勝手な行動で何万人にも迷惑と損失が出るんです。それを考えればあの程度の金額でもまだ安い方です」


「そ、そんなの……そんな事って……わ、私は何も知らない!」


「知りませんか。そうですよね、お若いから仕方のない事かもしれませんね。ただね早川様?貴女はそれだけの事をしたと自覚をするべきです。恐らく鈴木グループは企業の縮小を視野に入れていると思いますよ。当然、その規模も小さくなるでしょうし、従業員の雇用も厳しくなる事は間違いないかと。場合によってはリストラも考えられます」


「っ!?わ、私は!」


「学生時代の恋人と会社で再会して想いが燃え上がったのでしょう。『嫌いで別れた訳じゃない』『本当なら自分達は結ばれていたはず』……そう友人達に話していたそうですね」


「……」


 彼女は何も言いません。

 運転手の言葉に思い当たる節があるからでしょうか?


「あなた方のしている事を世間で何と言うか御存知ですか?」


「……」


「不倫です」


「ッ!!」


 運転手の言葉は正しいですわ。

 本人達はそう捉えていなくとも周囲からはそういう風にしか見られませんものね。

 彼女は真っ青を通り越して真っ白になりつつ絶句をしていました。


「さて、そろそろ宜しいでしょうか」


「ま……」


「貴女の自己満足でしかない謝罪をこれ以上聞いている程、お嬢様は暇ではございません」


 運転手の言葉に彼女はとうとう泣き始めてしまいました。その泣き声は非常に耳障りでしたわ。

 私は運転手が開けていてくれた車のドアの前に立つと彼女の方を振り返り、「ごきげんよう。もう会う事もありませんけれど、晃司様とお幸せに……」と言い、乗車しました。運転手も運転席に乗り発車したのです。

 もう会う事もありませんでしょう。



 新しい御代になる前に事は本当にですわ。

 


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