第9話 我儘

昔と明らかに変わったことがあって

それを受け入れられなくて戸惑う


見た目だったり感覚だったり周りの目だったり

その全てが受け入れられない


きっと来年はもっとそうなって

さらにその次の年は…って

考えたら死にたくなる


早いとこ死なないと

あたしの不安がどんどん加速して

耐えられなくて潰されてしまう気がするの


受け入れないものが増えるたび

不安も増えていくような気がしてならない



目の下の脂肪取りをした内出血は消えたけど

リフトアップした頬が触ると痛い


フェラチオする度に激痛が走るんだけど

男と寝たら結局フェラチオをしてしまう

なんでクンニを自らしない奴に限って

フェラチオを要求してくるんだろうか

して欲しいなら自分もしろよな。言わないけど



19時に2回目の待ち合わせをした

この前ちょっとだけ会った人


35歳のプロスノボー選手。ヒカル

長瀬智也似の分かりやすいイケメン


まあ2回目無いかなって思ってたら結構連絡が来て

だから飲みに行こうってなって


近いからと自転車で現れたヒカルは

長袖のシャツを着ていてもガッシリしていて

あまりに整いすぎて目立っていた


個室居酒屋に入ってすぐに


「会えてよかった」


『ヒカルって無表情だしメールと別人だよね』


「メールは意識して明るくしてるよ。

そのままの俺でメールしたら冷たい人でしょ」


『メールだけ優しくて実際冷たい方が嫌な人でしょ』


そう言ったらヒカルが笑って


「エリカは無表情でも口角が上がってるから、ずっと笑ってるように見えるよね」


『これはコンプレックスだよ。癖だから治らなくて』


「その方がいいよ」


優しく笑ったヒカルは

レモンサワーを3杯ほど一気に飲み干した


隣に行っていい?って聞いたら

いいよって言われたから隣に座ってみて


ふいに手が伸びてきて

軽めにキスをされる

タバコの味がした


「エリカは可愛いよ、ほんとに。会いたかった」


ヒカルは照れたみたいに小さく呟いて

だから顔をこっちに向けて深めにキスをした


『ヒカルはかっこいいよね。あたしも会いたかった』


店を出たらもうだいぶ寒くて

ヒカルがよく行くというバーに行って


なんか癖で飲みたくも無いジントニックを飲んで

今日は飲みすぎてて具合悪くなって一回吐いて

ヒカルの目がだいぶ優しくて可愛くて

店のカウンターでキスしたかった

でもそのまますぐに出て


じゃあねって言ったら


「まだ帰りたくない」


って言うもんだから

道の真ん中ですごい抱きしめてくるから


近くのラブホテルに入った

前にも一度入ったところだ


見た目よりもずっとずっと

丁寧なセックスをする人で

前戯もキッチリ。挿入もゆっくり


久々にこんなセックスしたなって思って

正常位をしながら目を見つめてみて


生で挿れたのに外で出されて

指で触って舐めて


寝転がってる時も抱き寄せてきて

また会いたいし、もっと会いたいって言われて


『こういうことがあると反省会するの、一人で。

それで、あたし何やってるんだろうとか思ったりする』


「それってもう会いたくないってなるの?

そんなのやだよ。一度ヤッたからって会うたびにするわけじゃないんだし、そんなこと言わないで」


泊まらずにホテルを出て


部屋を出た瞬間から男って大体冷たくなるから

それが嫌いで、だからホテルを出る瞬間にいつも死にたくなるんだけど


後ろを歩くあたしの手を握ってくれて

そのままホテルを出てくれて


別れ際もすごい強く抱きしめられて

185センチのガッシリした体にスッポリ埋まって

日曜も会いたいよって言ってキスされてバイバイ


深夜の3時だというのに目が冴える

頬の痛みを感じなかったな

だけどこれは多分一時の気の迷い


多分あたしは弱ってる

だから好きかなとか思ってる

好きだと思い込みたいだけかもしれないけど


受け入れられないことを

少し受け入れられそうな気になって


帰宅してからすぐに連絡をくれたから

やっぱり色々と揺らいで、でも


揺らいだこの気持ちも多分すぐに

行き場を無くしそうな気がして寂しくなった


誰も好きになりたくないよ、もう

だけど関わった人には好きになってほしいの

あたしは何だかんだで誰も好きじゃないかもしれない

それでも誰にも嫌われたくないし好かれたい

そんな矛盾と我儘を

誰かにわかってほしい。そんなこと考えた

相も変わらずとても我儘だ

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