第10話 漂流

思ったより空気が暖かい朝だった


この駅で降りたのは初めてだな

いつも通過はするけど、と頭の中で少し考えた


朝10時。代々木駅西口


最近やり取りをしてた男に会う約束をして

代々木に住んでる男が指定してきた



27歳。フミヤ

自分で会社をやってる猫好きな男


190センチの高身長のそいつを

遠巻きにすぐ見つけてしまって


べつにイケメンってわけではない


ロン毛パーマで丸メガネだし

スタイルが抜群に良いからお洒落な感じに仕上がっているだけ


あたしを見つけたフミヤは

メールよりもだいぶテンションが低くて


部屋に向かう道中で少し怠くなった


部屋は代々木駅から歩いて5分もしなくて

お洒落なデザイナーズ物件

部屋に入るとすぐに猫が懐いた


あたしを強く抱きしめてきて


「ほんまに来てくれてありがとう。

会いたかった。すごい嬉しい」


フミヤは細い目をさらに細くして笑って

関西弁が嫌いなあたしは少し苛立った


お昼に出かけたいからそれまでダラダラしよ

なんて言う


ダブルベッドに横になったフミヤが

おいでよって言って手を広げるから


セックスすりゃ仲良くできるかな~

って思ってセックス


イマイチ。その一言に尽きる

生でするくせに外出し

だったらつければいいじゃん馬鹿なのか?


精子を自分で拭いて

フミヤはサッサとシャワーに行く


ランチの時間無くなっちゃったなあ

映画までもう30分しかないよとかって

何?お前のせいだろ?って思いながら着替え


タクシーで新宿行ってギリギリ

映画は面白かったけど

とにかく合わない男なのかもとか考えた


焼肉食べて部屋でお酒飲んで

気づいたらもう寝てて

準備した時にセックス


セックスの時だけ好きって言って

名前を何度も呼んで

そういう男は浮気体質だよね、あたしが言うなって感じだけど


結局生で外出し。あたしはオナホかよ


洗面所の下の棚に

メイク落としやらコンドームやらが入ってる

男ってほんとこういうの片付けないよな馬鹿だから


上野でミイラ展見て

日曜なのに仕事とか言い出して

嫌な男のパターンはみんな同じ


だからもう

15時にすぐ別れて一人カフェ


久しぶりの休日を無駄に過ごした喪失感と

一気に来る気怠さはいつも変わらない

カフェでの一人反省会を

いつか誰かと笑いながら出来たらなとか

考えてすぐに気持ち悪ってなったから

返信してなかった違う男にメールを返した



上野駅で19時待ち合わせ


細身のパンツにライダースを羽織った

綺麗な男が立ってた。写真そのまんま


近くのイタリアンバルに入って

オマール海老のグリルとワインを頼んで


サラサラな黒髪をセンターで分けたその男は

36歳の、ジュン

伊勢谷友介に激似だった


びっくりするくらいに整った顔を眺めて

イケメンだよねって言ったら


まあね。それはそうだけどさ、って

さらっと言うのね


「エリカも美人だよ。自覚はあるでしょ?」


ナイフとフォークの使い方が

今まで出会った人の中で一番美しいなと

あたしはジュンの手先を眺めて思った



暗くてお洒落なバーに移動して


『ねえ、人に興味とかあるの?

自分よりも興味持てる人いる?』


「何だよそれ。

俺ってこう見えて惚れやすいんだよ?

相手さえいれば今すぐにでも結婚したい」


『へえ。じゃあさ、あたしとする?』


「俺の遺伝子だけでも子供は安泰だけど、相手が

エリカなら最高だね。いいよ、する?

婚姻届ここにあったら、すぐにでもサインするよほんとに」



あたしは笑ったけど

ジュンはあんまり笑わなくて

だけど不思議と楽しかった


あたしと同じような悩みを持ってる人な気がして

少しだけ嬉しかった


そのままジュンと寝て

セックスはあまり良くなくて


朝になってすぐバイバイしたけど


フミヤからは他の男と会ってない?なんて

どうでもいい連絡が入っていた

だったら何だっていう話。どうでもいい本当に


誰かに流されたいの

もうあたしは何も選べない

何も選択肢がほしくない

選択肢が多いからこその不幸もある

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