第11話 Ocean


「もう今やってる事業を2つ売って仕事も忙しくなくなったから、地方の人材を育成したいんだよね。

地方の良い大学出てそのまま地元就職とかしちゃってさ、埋もれてる良い人材みたいなの沢山いるじゃん。そういう子って勿体無いと思うんだよ」


上野の焼肉屋で肉を焼きながら

マサトは相変わらず早口にそんな事を話す

あたしがどんな相槌を打つとか、聞いてるかとか

この男にとってはどうでも良いのだろう


この男は会いたい会いたいと言うわりに

久しぶりに会ってもいつも何も変わらない


月一程度飲みに行ったりセックスしてる仲で

27歳で会社をやっているが

具体的にどんな事をしてるのかは知らないし、多分互いにさほど興味もない


食べたらまだ19時半で

前はバーとかシーシャとか行ってたけどすぐにタクシーでマサトのマンションに帰って来た

バレンシアガのシャツを一度着たら捨てるようなこの男は、女を切らしたことがない

コンドームも前の女の忘れ物も放置する典型君だから、あたしとしては付き合いたいとは思わないが


相変わらず無愛想な猫の頭を撫でて

初めてマサトの家でセックスをした


けれどこの男のセックスは

いつしても良いセックスだ

気持ち良いわけではなく手本みたいなセックス


『マサトってセックス上手だよね』


「そう?言われた事ないな。

ちょっと前に付き合った彼女とも2回くらいしかしなかったし、最近性欲が無いんだよね」


そんな話をしてたら寝ちゃってて

目覚めたらまだ0時前で


マサトがオンラインで喋りながらゲームしてて

それ眺めてたらまた寝ちゃって


次に目覚めたら6時だったから

シャワー浴びて化粧してから部屋を出た


男と別れた早朝に

1人で飲むどうでもいいカフェのコーヒーが

世界一美味いよなとかいつも密かに思う


そういえばマサトと初めて会った日に行ったバー

あそこのグラスホッパーは今までで一番美味しかったなあ。他で飲むより色が白くて

次会ったらまたあそこ行こうって言ってみようかな


Oceanって名前のバーだったと

珍しく名前を覚えていた


帰って着替えたら仕事に行こう

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