第6話 トリッパ

梅雨が明けた

むせ返るような暑さがまた来た


この感覚が来る度に男が変わる

いつもそうだった


あたしはバカみたいに

夏が来る度にいつも似たような

似てるようで違う遊びを覚える


それを繰り返して夏が去ると全て失ってる気がするの

まあ、失うだけの何かがあるとも思えないけど



『会いたいな』


ゴロウにそんなメールを送ったら


「会おうって言ってくれ」


そんな返事が返ってきた



20時過ぎにゴロウに会って

彼の知り合いがやってるイタリアンに行った


ゴロウは馴染みの店なのにメニューで悩んでいて

これもあれもいいなあなんて言っていて


あたしが迷わずにトリッパを頼むと

そんなのあったんだ、って言っていた


薄暗い照明で見ても整った彼の顔を眺めて

今日もかっこいいんだねって言ってみて

エリカも可愛いよなんて言われて笑い合った

バカップルみたいだよねって


テーブルの下から手を伸ばしてきたゴロウの手を

握り返したら少しドキドキした

美しいけど性的な興奮を煽るタイプの男だ


店を出てあたしの手を握りながら


「エリカの気持ちが冷めた時を考えると怖い」


『むしろ早く冷めたいよ。好きすぎて』


そう言ったら

ゴロウが珍しく声を出して笑った

終わりのない関係などないと

とうに分かりきっているはずだ


ゴロウの部屋でセックスをして

何日か前に今井ケイとセックスしてからまあまあ痛かっただけに、今日も地味に痛くて


悟られないようにセックスをして

大好きだよって言ってくれて

また隠しようが無いほどの痕を残してくる


ああ、痛い

ユキトに見られたら厄介だな

ユキトを手放せないのか、手放さないのか

あたしにとっての「大切」の意味を問いてみる


自分が本当は何を考えてるかがわからないのに

いつからそうなのか最初からなのか

最初がいつからなのか、何もかもだ


ただ

ユキトでも他の男でも

一緒に寝て起きた朝は逆を向いているんだけど


ゴロウと寝ると

起きた時に抱きしめ合ったままなんだよね

だから何ってこともないけど

結局、それが居心地いいってわけでもないし

あたしは誰かと寝るのが苦手だ

朝を隣で迎えた試しがない。だから帰るのだ


朝彼の部屋を早く出て

一人で家路につく間に、昨夜のトリッパを思い出した


あのトリッパは好みじゃなかったな

わたしはもっとスカスカのやつが好きなんだよね

もう少し固めでスカスカのやつ


今日も約束が立て込んでる

仕事もある。男にも会う

夏が終わってあたしの遊びも終わればな

そんな都合良く行かないから、現実なんだ

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