第5話 名前も知らない

ゴロウとセックスをした次の日の夜

28歳の男に会った


飲み行く?って唐突に誘われて

夜22時過ぎにタクシーを拾った。


「はじめまして。今井ケイです」


わりと丁寧な挨拶をしてきた

見た目はパンクバンドにいそうな感じの

やけにお洒落で細い男だった


適当に入った飲み屋で

無駄に飲み過ぎてあたしは

ベロベロになってすぐ近くのケイの部屋へ

楽しいから酔ったのか

楽しくないから酔ったのか

何かあった時に酔った所為にしたいのか

何も考えないから酔ったんだろう


トイレで吐いて床で朝を迎えて早朝に帰った



そんな恥ずかしい思いをして

もう会わないと思ってたのに


ケイはマメに連絡をくれて

だからついまた会っちゃって


ケイの部屋でホラー映画を見ながらウォッカハイ

眠くなって横になって

この日は全く酔わなかった


「ぎゅってしていい?」


『うん、いいよ』


控えめに聞いてきて

強めにぎゅってしてきて


「俺達、いい大人なんだよ」


『だいぶね。だけどなに?』


「ううん。それだけ」


わかってる。なにが言いたいのか

こういう時の男が何を考えてるのか

そして何故マメに連絡をしてきたのか

わかってるよ。あたしは大人なんだから


うしろを向いて寝ようとするあたしに


「ねえ、キスしたいって言ったら怒る?」


『そういうの聞くあたりは大人じゃないんじゃないの?』


「だって一応さ。気持ちとか分からないし」


断ってもするくせに

断る隙すら与える気もないくせに

言いながらキスして

結構深くて

唾液が苦くて

服を脱いで、結局

あんなに飲んだのにガチガチで


中に出されたけど

そのまま抜かずに2回めをする人だった


『危険日だったらどうする?』


「大丈夫。俺種ないからさ」


なんだよそれ。うそくさい

もう少しマシな事言えないのかよ

セックスした後に思う腹のうちなんか

言わないのが正解だ


『ねえ、ケイって本名なの?』


「ケイは違うけど、わりとみんなからそう呼ばれてるよ」


名前が嘘であるのは知っていた

開かれたパソコンのamazonの画面に名前が出てたから


だけど別にいいかって、名前なんかね

プロフィールは何だっていい

真剣に向き合うつもりなんかないのだから


気付いたら朝で

ケイはシャワーに行ってるようで

着替えて何も言わずに部屋を出る


こういう時の外の空気は

昔から不思議と変わらない気がする



「俺、エリカのこと好きだよ」


そんなメールが来る

でもその好きはあたしが欲しいやつじゃない

けど最低限のマナーはあるらしい

セックスした相手に好きって言えるだけマシだ


そもそもケイには恋愛感情がない

お互いに知ってて会っている


ゴロウのことを考えないで済むように

ケイとの時間は良かった



誰かに会うのは誤魔化しでしかない

いつも行き場の無い感情を

何かでうやむやにしたいのだ

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