第4話 痛み

歳をとったな、なんて思う瞬間は

本当に突然にやってくる


別にいつも鏡を見て思うわけでもない

ふとした瞬間に、来る


年齢よりだいぶ若くは見られるけど

そんなのはどうだって良くて

自分の中で受け入れられなければ意味がない


年齢を言った時にあるあのお決まりな

「そんな風に見えなかった」「見た目若いですね」

あれあれ。年より若く見えると言えば誰しもが喜ぶと思っているのだろうか。馬鹿らしい


大事なのは年齢じゃない

年齢に見合った見た目の美しさ、だ


とはいえあたしは

処女を失った日から何も成長しない



ときめきが欲しい、なんて言葉を

だいぶ前に飲んだ看護師の先輩が言っていた


そんなことを思い出したのは

新しい男と待ち合わせをしたからかもしれない


SNSで知り合った33歳美容師。ゴロウ。

顔もよく分からなかったけどたまに電話をしてた

子犬みたいに馴れ馴れしい男

猫派なのに惹かれるのは大体犬っぽい男ばかりだ


SNSで知り合うのってすごい多いけど

結局会うに至らないから、だるくて

これは最近のあたしにしては珍しいことで


待ち合わせの店までは家からタクシーで10分もしないで到着して

そこで電話がかかってくる


「もう着くけどエリカどこ?」


『店の前。ゴロウどっちから来るんだろ』


とかなんとか言ってたら

全身黒くて細身の男がこっちに駆け寄る


横並びのペアシートの居酒屋で

吾郎のサラサラなグレーがかった長い前髪のせいで

横から見ると鼻しか見えなかった


あたしの頭を触って


「頭の形がすごいいいよね。絶対ボブとかショートも似合うよ。頭の終わりから顎のラインが綺麗」


なんてニコニコしながら言う


「エリカは綺麗な顔をしてるよね。美人」


『ゴロウも綺麗な顔をしてるよ』


「もうさ、顔を褒められた時に否定したりするのやめようと思って。だからありがとうって言うんだけど、だからって何にもならないんだよね」


『でも顔が良いのは強みだよ。人は外見が大事』


「そうなんだよね。性格も見た目に出るから俺が好きな人はみんな見た目も好きだし」


あたしと似たようなタイプな感じがした


突然手を握ってきて

もう酔ったの?とか聞いてそのままにしてたら


「今の指相撲だから、俺今10カウントしたからエリカの負けね」


とか言って


「ご褒美はチューでいいよ」


って、すごい可愛く笑う


あたしは酔わないまま

酔っ払ったゴロウと店を出てすぐ

店の横の壁に押し付けられて舌を入れられた


「ご褒美のやつ終わっちゃったなあ」


『うん、もうしないよ』


そのままゴロウはすごい楽しそうにしてるから

可愛くなって言われるがままにカラオケ行って


ゴロウに言われて一緒にコスプレを借りて


部屋で何回もキスをされた

で、噛み癖があるのか知らないけど

あたしの腕と指と足と、すごい強く噛むの


痛すぎて呻いて

そしたらまた噛まれて呻いて


勃起した吾郎のペニスを下着越しに少し触れて

あたしのに下着の横から指を入れられて


でもまあこんなとこでヤるほど若くないし嫌だし


だけどなんかこーいうの

若いよなってそこまで悪い気はしないで思った


店を出たらもう2時近くで

タクシー捕まえて帰るって言ったら

うちに来てよお願い。寂しいよって言われて


その日に寝るといつも凹むから振り切ってタクシー


ごめんねってメールが届く

エリカの指を噛んだ時の骨の感触が残ってる

思い出してゾクゾクする。会いたい、って


太もものは歯型じゃなくて痣になってた

歯型と内出血の跡はちょっと残るかもしれない


そんなものを見つめて


カラオケで着替えてる時見えたゴロウのタトゥーを思い出す

顔はhydeに似てた


初恋の人に似ていた

多分、だから会ったんだろう

そして会わなくてよかったかななんて思ってる


ゴロウはあたしを好きにはならない

直感的にわかること。ならない


あまりにドキドキしたから

こんなの忘れたいや

ときめきは、面倒の前兆ですよと

あの時先輩に言ったのはあたしだ


ユキトに悪いとかは全然思わなかった

自分をますます嫌いになっただけ

あたしが嫌いになる相手はいつも自分だけだから


跡を指で撫でてたら

ゾクゾクして頭が痛くなった。面倒だ


カラオケでゴロウはGLAYばっか歌ってたなあ

愛の曲ばかりだった

曲の間奏のたびにキスをされた

だけど曲名が何も思い出せない

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