第3話 生温い
自転車で通り過ぎた女子高生のおでこが
汗で光っていた
染められていない長いポニーテールが風に舞い
風を受けたスカートが船の帆みたいに膨らんでいた
あたしにはあんな頃があっただろうかなんて
考える必要もないほどすぐ
薄汚れた16歳のあたしがケラケラと笑った
懐かしみたくなるような綺麗な過去など無いと
考えるだけ虚しいのは自分がわかっているはずだ
あの頃に戻りたいだとか
今までの人生をリセットしたいだとか
やり直したいだとか
きっと前は何度か考えたけど
今は別にそんなこと考えない
考えた頃はまだまともだったに違いない
だって無理じゃんってそれだけだ
どうせ無理なことを言ってもそんなの
疲れて傷つくだけじゃない
タラレバ話をする奴が一番嫌いなくせに
そんな事を酔って話してる奴とか
女が集まるとしちゃうそういう話とか
くだらないって思いながらあたしには
そんな話を一緒にする人もいないんじゃないって思ったりもする
この前男と那須に行った
あたしにしては久しぶりのこと
男に会ってデートしたりセックスしたり
そんな当たり前に繰り返す日常を
最近は面倒に感じている
16のあたしが好きだったこと
それからずっと好きだと思ってしてきてること
それが今は何も
何が面白いのかも何もわからない
あたしの場合は単に他がなかったからかもしれない
誰かにあげられるものも
会いたいと思われるだけの理由も価値も
何もなかっただけなんだとも思う
九州出身の単身赴任中の37歳
あたしのことがとにかく好きってだけの男
動物王国行ってアルパカ可愛いですねとか言って
自然公園みたいなとこで空気美味しいとか言って
苦手な温泉に何度か浸かって
男はお風呂で仲良くなったらしい
夫婦で来てた旦那の方と仲良くなったみたいで
あんな美人と温泉なんて羨ましいですって言われた
そんな事を笑顔で早口で言ってて
部屋に戻ってすぐセックスをした
見た目通り優しくてノーマルな
もちろんコンドーム着用だ
ユキトにはこの前初めて暴力を振るわれた
暴力って言っても
喧嘩した時に頭を洗面台の鏡に叩きつけられて
そのまま勢いよく洗面台に腰と背中を強打っていう
骨くらい折れたらよかったのに
そのまま殺してくれたらよかったのに
腰がすごい痣になって血が溜まったんだけど
ただ痛いだけで治っちゃうからさ、結局
物理的な傷なんか時間ぎ経てば必ず治る
治ったらまた同じ事を繰り返す
だから物にしたいならいっそ息の根を止めないとさ
謝るわけでもないけどやっぱり
好きなんだって言うの。別れないからって
好きだからイラつくし腹が立つんだろうな
愛と憎しみは紙一重だなんて「お約束」でしょ?
ユキトとの関係はもう良いものじゃない
抜けられない生温い地獄みたいな
でも別れられなくて
好きかどうかもわからなくて
だから那須行ったんだと思うけど
何も決断できない自分が嫌だ
だけどやっぱり前に進む気力も無い
義務教育が、学校が嫌だった
あの自由が無い縛られてる感じが嫌だった
義務教育が幸せだったと気付くのは
大人になってからなんだ
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