第2話 微睡

手を握られた時に

あたしの指先が浮いていると


その上からもう片方の手を被せて

ぴったりとくっつくようにしてくる


そんなところが可愛い、と

繋いだ手を眺めてから

珍しく頬が緩むのを感じた



「ねえ、結婚してよ。

年下で頼りないかもしれないけど

俺、仕事とかも全部頑張るからさ。

エリカのことずっと好きでいるから」



ふと

ベッドでユキトがあたしに言う



『本気で言ってる?

あたしはそんなに多くを望んでないし

ユキトの重荷になるつもりもないから

無理に言わなくて良いよ』


「俺は本気だよ。

だからそんな悲しいこと言わないで。

エリカは俺の1番なんだよ」


6月くらいに実家に挨拶に行こうよ、って

ユキトはあたしにキスをしてから笑う


結婚に踏み切らないまま

3年が過ぎた元彼との時間を思い出し

長く時間を共有しても結婚に辿り着けないと

無駄だった、なんて言いたくなるのかなと

そんな言葉を吐く女にはなりたくないと思った


そもそも

本当に結婚できるの?するの?

あたしにする気はある?

不向きに違いない。でも分からない


ユキト以外にもう一人会ってる男が居て


慶應を出て大手ゼネコンで働く30歳の圭一


圭一とは何度か会ったり寝たりしていて

1LDKのタワーマンションに住んで

BMWに乗っている

そう、典型的なタイプってやつだ


ユキトとは違って

誰とでも仲良くなれるような

人懐っこいタイプの圭一にも

2回目のセックスの時に付き合ってって言われた。


付き合うだなんて

好きだなんて

なんでそんな面倒な誠意を見せてくれるのか


付き合おうという言葉は

セックスする為の台詞だと思っている

だけど同時にそれを言えるのは優しい男で

それすら言えないのは無責任なクズだ


圭一に、あたしの好きな所を聞いたら


「一緒に居て楽しいし、話も合うし…

あとはとにかく見た目が好み。可愛いから」



ちなみに

圭一と居る時は全く話が合わなくて楽しくない


だから多分

圭一はあたしの見た目だけが好きなんだろう


容姿が好みだと言われるのはわかりやすくて良い

逆に言えばあたしに容姿以外の長所は無いのだ



一昨日は

圭一とその後輩っていうイケメンと


あたしとあたしの友達の4人で飲んで


圭一は社交的だから

あたしの友達にもすごく優しくしてくれたし

その場を盛り上げてくれたし


こういう人と一緒に居たら

将来的にいいよなあ、とか

そんなことを考えるんだけど


どうしても好きって気持ちは湧かない。


ただ

何となく勿体ない気がして一緒にいるだけ

あたしもいわゆるミーハーなのかもしれない


圭一は友達が多くて

育ちも家柄も良くて

欲しい物は全て手に入れて来たタイプで


あたしはこういう人間が嫌いで

それでいて羨ましいんだろうな


あたしは育ちも普通で職業もただの看護師で

ものすごく美人って訳でもなければ

何か秀でたものも持ち合わせてはいない


圭一に会ってると

ユキトがすごい連絡してきて


夜中に電話をすると

今にも泣きそうな声で


「俺だけ見てよ。

ずっと一緒がいいよ。会いたい」


なんて言う


可愛いんだけど

若いからなのか独占欲が強すぎて

少し息がつまる


独占されたい束縛されたい彼色に染まりたいとか

そんなぬるい物では無くて

逃げられないようによそ見しないように

目隠しして監禁くらいの事をしてほしい


逃げるのなんか簡単で

好きって魔法が解けるのも一瞬なのだから


ユキトは

あたしには他に男が居るとわかっている筈


ただ、言わないで側にいてくれるのは

愛なのか何なのかわからない


今週末はお花見に行く。ユキトと。

その次の日は圭一と野球を見に行く。

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