第7話 ハーゲンダッツとコンドーム

夏が嫌いなくせに

夏が終わると寂しい、なんて


思い出が増えなければいい

もうこれ以上抱えきれない


思い出も写真も感情も何もかも

いらないの。これ以上いらないよ


ハロウィンなんてもんがいつから浸透したのか全然分からないのに、街中はやたらと浮かれた奴が多い


カフェでコーヒーを飲みながら外を眺めてて

隣では女子高生が血糊をつけながら笑ってて


19時になる直前

電話がかかってくる


「もう着いてた?俺もういるんだけどさ」


『あ、いるよ』


そんなことを言った瞬間

男が笑顔で手を振りながら近づいてくる


190センチ程ありそうなモデル体型

チェックのスリーピース姿だった


今日が初対面の男で

ハーフの26歳でケンイチ


ケンイチがよく行くというお洒落な焼き鳥屋に入って

ケンイチは冷たい顔をしているわりに人懐っこくて

よく笑ってよく喋る男だった


「想像よりずっと美人で驚いたよ。

顔面がとにかく俺の好み。話しやすいし」


とにかくストレートに言ってくる

だけど性的な魅力をあまり感じなかった

あたしは美しい男に興奮出来ないのかもしれない


店を出たらまだ早くて

思いのほかもうだいぶ寒くて

ケンイチがあたしの手を握りながら


「ねー。アイス買ってエリカんち行こうよ」


『えー。一人で帰るけど』


「時間ってすごい大事じゃん。俺はとにかく時間を無駄にしたくないんだよ。次いつ会えるか分からないなら、とにかく今一緒にいたい」



なんだよそれ

新しいヤリモクの言い訳なのか

美しい男が言えばそんなふざけた台詞さえ

許されてしまうわけだから、見た目の偉大さを感じる

美しいものは強者であり、醜いは弱者なのだ


だけどなんかまあいいかって思って

コンビニでハーゲンダッツを買って


部屋でアイスを食べて

あたしにキスをしてきて

あまりに鼻が高いからキスしづらくて


抱いていい?なんて言われてそのまま

セックスは激しめだった


引き締まったいい身体のケンイチは

ニコニコしながらあたしを抱いて


終わったら少ししてすぐ

タクシーで帰っていった


あたしが嫌いなバニラの味がしたな

あたしはバニラ味が嫌いなんだけど

何も入ってないくせに地味なくせに

王道で素材が評価され続けるあの感じ


コンドームをつけるのがスムーズだったな

ベッド横の床をふと見ると

用意周到なコンドームが落ちていた

足の指で掬い上げてゴミ箱に捨てた



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