第3話 小雨の中のデート
門を抜けると岩砂の山の頂上であった。隣で流れていた川は滝となって街に水霧を降らせていた。
霧が雨となって降る下は城下町でその間に虹がかかっておりわたくしが漏らす前に「わあ……」とどこからか感嘆の声が聞こえた。
今は雨も降り続いているけれど普段乾燥した土地。
そのため自然のミストは気持ち良いだろうとわたくしは思い灯璽さまについていく。
その横顔をチラッと見る。
――ひゃ……! 滴る良い男とはこういう……!
わたくしは目を白黒しながらついていく。
この街の入り口は城の中央付近。
山に隣接されて建てられていた。
門を過ぎると白い大理石が敷かれた廊下。滝のカーテンで見えなくなっておりいい目隠しになっていた。
さらに上があるらしいけれど、案内人が先んじて「ここより上は城主アゼル様の住まう場ですので……」と阻止する。
「……明日お通しする場所です。皆さまはこのエスカレーターで下へ降りた先の城下にある宿泊施設にて予約をとってます。今日はそちらに行っていただきます。もちろん様々な店があるので必要とあれば案内しますよ」
そう伝えられた。
瞬時にわたくしは灯璽さまをチラ見し「どちらかお散歩にいきませんか?」と誘う。
そう。
わたくしは『デート』というやつを体験してみたいのだ。魔王城に灯璽さまと住んでいた時も二人陰で逢瀬を楽しんだりと手を繋いだ二人が店を巡ったりと輝かしくみえた。灯璽さまは疎そうだからわたくしが手を引いていかなくちゃ……いやわたくしも上澄みしか知らないし。
……どうしましょう。
そうしてわたくしが今後の『デート』を考えていると、灯璽さまが柱の一つに隠れる。
何かあったのかなとついて行く。
灯璽さまが急に脱ぎ出した。
「!!」
急に脱ぐ灯璽さまに驚いたけれど、ここで商人たちと別れて買い物やご飯を済ますらしい。
「これを宿に持って行ってくれ」といって装備や持ち物を商人に渡して行く。
「はわ……」
わたくしは恥ずかしくなりながらもしっかりと脱ぎっぷりを見る。
小雨になったとはいえ髪と屋根から滴る水が褐色の肌をなぞる。
そしてゆっくり滑り落ちるのを眺める。
わたくしは灯璽さまの引き締まった身体の傷をねっとりと見つめる。
案外着痩せしてるんだなと隅々観察してしまう。
普段も見れないことも触れられないこともないけれど、崇高で高貴な灯璽さまを汚すようでどうしても憚られていた。
今回良い福眼だと心の中で「ご馳走様」と手を合わせる。
ちょっといやらしい目で見てしまったけれどこの背中に守られていたのだと実感する。
わたくしがハフハフしている内にあっという間に着替えは終わってしまった。
……もっとゆっくり堪能したかったのに。
通常とは異なり、ターバンで上手く目元を隠しゆったりとした服装。
灯璽さまが支度したのを見計らいこほんと気を取り直し今後のことを考える。
二人きりになるならデートついでにどこかで窃盗はやめてくれないか説得できないかと思う。
散々商人から言いつけられて、おこづかいを貰っていざ灯璽さまが向かった先。
防具屋さん。
ショーウィンドウに飾られた頭や銅の一式の横、手の防具が見えた。
その小手には申し訳程度に水色の宝石があしらわれた品。わたくしの色を身に着けてくださるのはとてもうれしいものでわたくしは自然と笑みがこぼれる。そしてショーウィンドウに張り付く灯璽さまが子供らしく可愛らしい。
そういえばとわたくしは別の町でのお買い物でもずっと眺めていたのを思い出しほっこりしてしまう。
その説明文には『精霊様の加護付き』と書かれていた。
精霊様が祭られている社などにしばらく置いて祝詞を述べる。多少なりとも加護がつくという。わたくしは訝しげになってしまう。
加護が本当についているか……は灯璽さまだから加護があろうとあるまいと心配はない。問題は貰ったおこづかいで賄っていけるのか。
――だ、大丈夫かしら。
灯璽さまのお金の使い方がおかしいのは存じている。
おこづかいをあげた商人も「ここの相場は……」と一から十まで説明していた。しっかり灯璽さまをわかっている。
わたくしも記憶が少しだけ戻ってきていて金的な知識だけなんとなくわかる。この防具灯璽さまが貰っていた金銭では買ってしまえば最後。
夜までもたないのはわかっていた。
一抹の不安がよぎるわたくし。
「おこづかいを貰った時、今日の夜までの分とあのものは申されてましたし……ここは我慢して」
「…………」
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