第14話 弾切れ


 

 白い殻は割れていた。巨大なその卵の様な外壁は鉄の骨を剥き出しにして、煙る欠けを大胆に露呈している。

 それを齎したのは人々ではあった。確かな絶望の様をその島国の中で体現しながら。

 こうして、煌の意識がユートピアへ転送される中、物理的世界である生身の、現実の戦火は煌達の肉体の置き所である特務的多元研究開発機構、通称特研へ漸く到達する。

 

 特研の白く丸い建造物への攻撃はたった一撃ではあった。火薬を積んだ戦闘機でその白い殻に突っ込み爆発したのだ。そうして穴が出来た。立ち上る黒煙をもろともせず、白いドローンに乗った人の群れが、煌の仲間とされるその者達が、数百の白い点となって躊躇う事無くその穴へ飛び込んでいく。そうして、島国の地の上は正真正銘の、生きた人間の居ない所となった。

 その様を遥か上空の衛星は捉えており、異物ことミネルヴァはそのデータをインストールし続けた。

 実体の無いプログラムであるミネルヴァは、量子コンピューター「燦紫さんし」という実体の中で、状況を刻々と記憶し、幾度も計算を行っていた。

 

 人々に破壊されたその白い殻の下、建造された幾重もの層を経た最果て、その地下深くに、燦紫が設置されている。

 巨大な氷柱に取り囲まれた燦紫を中心に置いた、高さ10メートル直径36メートルの円柱の、暗く冷えた部屋には、人体用であろうモニターが壁一面に走っている。

 そのモニターには、様々なジョブが表示されていた。

 その中で、プログラム「アステカ」のタスクは瞬く間に完了していく。

 最大キャパで稼働するタスクも間もなく完了を迎える状態であった。そのタスクは「eliminate 排除the nuisance邪魔者の」という名で記されていた。

 

 プログラム「ミネルヴァ」のタスクの大半は待機状態となっており、ただ一つ、「defragmentatin《最適化》g the sun太陽の」と記されたタスクだけが稼働していた。

 その状況に、ミネルヴァは無念さや悔恨を出力する事は無い。ただただ、与えられた指示をやはり実行する。

 

 その稼働するタスクの下に一つ、新たにタスクが追加された。そこには「protec《守れ》t the fire火を」と書かれていた。

 


 

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