何度でも最高のエンディングを
メープルクラゲ
エピローグ
その劇場は存在しない。
入るための扉は無く、受付のホールも無く、演者のための控室すらも無い。
舞台はある。それを囲う客席に果ては無く、席を隙間無く埋める観客は人種も種族も多種多様に揃ってはいたが、ただじっと舞台上で閉じられた分厚いカーテンを穴が開きそうなほどに見つめるばかりだ。
静寂の劇場で、ふいにブザーが鳴る。
幕が上がり、始まったのは一人の勇者が世界を救う物語。
小さな村に産まれた正義の心を持った勇者が、世界を脅かす魔王を倒すための旅に出る。
道中で仲間を得て強大な敵を打ち倒し、最後には魔王を殺して世界を救う。
どこにでもある、そんなありふれた物語。
勇者が帰還した先で魔王に怯えていた人々から讃えられ、感謝され。そんなエンディングと共に幕が降り、劇場は再び静寂に包まれる。
やがてまたブザーが鳴り、再び幕が開く。
始まったのは一人の勇者が世界を救う物語。
森に産まれた正義の心を持った勇者が、世界を脅かす魔王を倒すための旅に出る。
道中で仲間を得て強大な敵を打ち倒し、最後には魔王を殺して世界を救う。
平和な世界をエンディングに、幕が降りる。
静寂。
ブザーが鳴る。
始まったのは一人の勇者が世界を救う物語。
星の里に産まれた正義の心を持った勇者が、世界を脅かす魔王を倒すための旅に出る。
道中で仲間を得て強大な敵を打ち倒し、最後には自分の命と引き換えに魔王を殺して世界を救う。
勇者の棺を囲むエンディングを背景に幕が降りる。
静寂。
ブザーが鳴る。
勇者が世界を救う物語が始まる。
正義の心を持つ勇者が、仲間と共に魔王を殺す。
エンディングシーンで幕が降りる。
静寂。
ブザー。
勇者が魔王を殺す。エンディング。
静寂。
ブザー。
勇者が魔王を殺す。エンディング。
静寂。ブザー。勇者が魔王を殺す。エンディング。静寂。ブザー。勇者が魔王を殺す。エンディング。静寂。ブザー。勇者が魔王を殺す。エンディング。静寂。ブザー。勇者が魔王を殺す。エンディング。静寂。ブザー。勇者が魔王を殺す。エンディング。静寂。ブザー。勇者が魔王を殺す。エンディング。静寂。ブザー。勇者が魔王を殺す。エンディング。静寂。ブザー。勇者が魔王を殺す。エンディング。静寂。ブザー。勇者が魔王を殺す。エンディング。静寂。ブザー。勇者が魔王を殺す。エンディング。静寂。ブザー。勇者が魔王を殺す。エンディング。静寂。ブザー。勇者が魔王を殺す。エンディング。
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展開は唯一無二のものでも、大まかには勧善懲悪のハッピーエンド。
囚われのお姫様は無傷で生還し、道中死んだ仲間も勇者の力で蘇る。どんなピンチでも勇者は決して世界を諦めず、くじけもしない。
魔王による世界の傷は、頼れる仲間たちと希望でいっぱいの人々の手により修復されていくだろう。
なんて素晴らしいエンディングだろうか?
その世界で勇者は伝説として、人々の希望として死後も生き続ける。
…対して魔王はなんとは非道な存在なのだろう。
魔王は自らの悦楽のために力を振るい、多くの人を不幸の底へと容赦なく落とし、その悲鳴で笑うのだから。
せっかく殺しても、しぶとい魔王は幾度となく蘇り世界を壊しに来る。
しかし、何度魔王が蘇ろうと必ず勇者が殺してくれる。
そう、未来は希望に満ちているのだ。
魔王のせいでどんなに辛い事があっても、どんなに痛みを伴っても、その先には必ず。
何度でも最高のエンディングが待っている。
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