第17話 保管拠点
屋敷の方をあまり見なくなった理由は怪盗少年をしているからだけでなく、次の拠点を探す時間が増えた事も原因だ。
母さん達が色々調べ物をしている間に拠点候補を探して案内したり整備したりしていたのだ。
砦周辺以外の拠点は2か所作って居た。
1か所目は色々集め過ぎた財産と書籍を保管する場所だ。
人が余り踏み入れない乾燥地帯。砂漠に囲まれた場所に岩石群があるのだがその地下深くに巨大な一枚岩が埋まっていた。前世で世界で一番とか二番とか言われている有名な一枚岩は地下の方が大きいと聞いた覚えがあったので、透視で探索してみたら見つけた。
その巨大な一枚岩の内部を土魔法でくり抜く事で内部に空間を作り、そこに貴重品と書籍を移動してくことにした。
拠点名は宝物庫、1箇所の壁に大きく宝物庫、合言葉を唱えろ、アリババ、と炭で落書きしておいた。未来の人がここを見つけたら、色々想像を膨らめてくれることだろう。もしかしたら開けゴマと唱えてくれるかもしれない。
世間で知られている魔法では地下深くにある一枚岩には誰も気が付く事は無いと思う。ピンポイントで土魔法で掘り進めば見つける事が出来るだろうけど、目的も無くそんな場所を掘る奴は多分居ないので恐れるだけ時間の無駄だ。
地下であるため寒暖の差も無いし密閉されているので物を保存するだけならかなり安定している。部屋の隅で炭火と硫黄を炊いた状態で数日放置したので持ち込んだものに虫が居たとしても死滅している筈だ。室温が上がって物が劣化するのが嫌なので透視で火が消えるまで監視しつつ熱変化を使い室温を一定に保つ必要があったけどうまくいったと思っている。数日そのままで放置したあとながらマリア母さんに風魔法で呼吸確保の協力をしてもらいながら一酸化炭素と二硫化硫黄の充満する空気を瞬間移動で追い出した。密閉空間の気体を一気に吸い出した状態になるため圧力の急減圧が起きた筈だけど、貴重品たちはマリア母さんが風魔法で保護してくれていた筈なので大丈夫だろう。
瞬間移動の際はその場の気圧差の関係で耳に手を当てて口を開けて置かないと鼓膜が破れたりする。前世でいう高速でトンネルの中を通過する際に起きる現象の強いものと思えば分かりやすいだろうか。瞑想を使うと治るのだけれど、頭痛がしてしばらく耳がキーンとなるのだ。
幸い問題無かったようで空洞内に残っていたマリア母さんの隣に瞬間移動をしても耳に違和感を感じなかった。マリア母さんの話では僕が瞬間移動で消えた瞬間にドンと大きな音がして少し霧が発生して天井からホコリが落ちてきたらしい。急減圧自体は起きていたようだ。風魔法の影響範囲を宝物が置かれた場所だけでなく部屋全体に広めたら霧がおさまったそうだ。
ここは隠したいものを保管するのに適した場所なので今後活躍してくれることだろう。
2か所目は極北の氷河に覆われた陸地の地下にある。
僕たちが居る大陸は北極にも及んでいて極地方は巨大な氷河に覆われている。人が生活するのに不向きなため誰も住んで居ない。氷河はゆっくりと海の方に向かい落ちていくのだがその動きは非常に遅い。氷河の下は地下もかなり冷たく天然の保冷庫として利用する事ができた。
外は平均マイナス50℃を下回るぐらいの世界だが地下はそこまで寒くは無い。氷点下ではあるけれど地熱の影響でもあるのかそこまで冷たくは無かった。
保管すると全て凍ってしまうけれど、食べる前に熱変化で解凍すれば問題無く食べられる。基本的には熱変化で急速冷凍してから持ち込んでいる。
凍らせてはいけないものは砦の地下の一角を熱変化で下げた氷室に保管している。冷蔵品は長期保存するのではなく早く食べた方が良いものが多いため、居住している場所の近くの方が良いと思って作った。だから冷蔵空間専用の拠点は作って居ない。壁には、像を掲げよ、ロンダルキアへの扉が開かれんとマリア母さんに掘り込んで貰った。未来人が見つけたら想像力を働かせてくれるだろう。もしかしたら怪しげな像を掲げてくれるかもしれない。
現在移住予定地の候補を並べ相談していたところだ。
僕が街をある程度調べ、母さん達が周囲で聞き込みをして優劣を決めていき残ったものだ。
1つは温泉が湧き湯治街ともなっている風光明媚で漁業も盛んな観光の街。
2つ目は街の中心にダンジョンの入口があり、探索者と呼ばれる人たちが潜って得て来る収穫物が主要産業な迷宮都市。
3つ目が酪農と綺麗な湧き水を使った酒造りが名物の高原の村。
4つ目が王都と港湾都市と隣国との国境と繋がる街道の交差地点にある、その国で1番人の出入りが多い交易の街。
マリア母さんが推すのが漁港が近く温泉も湧く観光の街、のんびり温泉に浸かり暮らしたいそうだ。リサ母さんが推すのが迷宮のある冒険者の街、現金輸入を得て生活を安定させたいそうだ。フローラ母さんが推すのが酪農と酒造の高原の街、田舎で家族水入らずのスローライフを送りたいらしい。お酒が狙いかもしれないけれど。
どこも現在地より遠く離れて居るので父親の影響は無視出来る他、条件さえ整っていれば移住がしやすい場所ではある。
観光の街は指定の銀行に一定額を預けた上で条件を満たした家を買うか建てる事で住民登録が出来る、国王直轄領という事もあって金周りが非常に良い。金持ち達の保養地としても有名でここの居住権を持ち別荘を構える事がこの国の金持ち達のステータスになっている。保養目的で訪れる人が多いという事もあって、プライベート空間を守ろうという事が暗黙の了解として存在している。街は綺麗だしご飯は美味しいと評判だし温泉は楽しみだ。ただお金を稼ぐ事は色々制限が多い。企業の多くは国王の監督下で割り込む余地は殆ど無い場所ではある。
迷宮都市は誰でもなれるという探索者が多いという事もあって人の出入りが多い事もあって治安が少し心配な部分だ。しかし金を得るという事に関してはかなりしやすい街ではある。出所不明なものの売買が行われても大きな騒ぎにはならなそうな場所なので屋敷から持ってきた宝飾品などを処分する事がしやすいのではとリサは考えているらしい。ただしその為には探索者としてある程度実力を示しておかないと、色々疑われてしまう可能性が有る。探索者のランクをあげて周囲の信用を得てから宝飾品の処分という手順を踏む必要があると思っているようだ。
高原の村は村人総出で定期的に行われる酒造りの作業を手伝う事が唯一の移住の条件だ。
特に高原の村には貴族はおらず、準貴族という村長が治めている場所だった。初代村長は貴族だったそうだが、閉鎖的な場所だったため平民と交わり貴族の血が薄まってしまったらしい。刺激が少ない場所なため若者の流出が起きており、近くの街の貴族に一定額の税を納める事でギリギリ統治を許されている状態になっているらしい。街の領主の息子に村長の娘が側室として嫁いでいるそうで関係は良好らしく、その娘の子が次期村長になるという事も内々に決まって居るそうだ。空き家が多いため耕作可能な土地が家付きで貰えるのもプラス要因だ。娯楽という刺激が少ない事と、現金収入の獲得手段は限られているという欠点はあるけれど、そもそも現金をあまり使わない自給自足生活がしやすい土地柄なので、田舎でのんびりスローライフしたいなら良い場所だ。
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