第18話 引っ越し先候補

今日は朝から母さん達が、移住予定地の候補が書かれた資料を見比べ語り合っていた。

僕が街をある程度調べ、母さん達が周囲で聞き込みをして優劣を決めていく過程で好みが別れたようだ。

排他的ではなく衛生的なシステムがあって紛争の恐れが少な平民差別が少ない街というのは意外と少ない。だから候補は4つに絞られて居るのだけれど全ての望み通りの街は存在しない。


1つ目の候補は温泉が湧き湯治街ともなっている風光明媚で漁業も盛んな観光の街。2つ目は街の中心にダンジョンの入口があり、探索者と呼ばれる人たちが潜って得て来る収穫物が主要産業な迷宮都市。3つ目が酪農と綺麗な湧き水を使った酒造りが名物の高原の村。4つ目が王都と港湾都市と隣国との国境と繋がる街道の交差地点にある、その国で1番人の出入りが多い交易の街。

マリア母さんが推すのが観光の街、のんびり温泉に浸かり暮らしたいそうだ。リサ母さんが推すのが迷宮都市、現金輸入を得て生活を安定させたいそうだ。フローラ母さんが推すのが高原の街、田舎で家族水入らずのスローライフを送りたいらしい。

どこも現在地より3つ以上国が離れて居るので父親の影響は無視出来る他、独自の衛生システムがあるので街は清潔だ。条件さえ整っていれば移住がしやすい場所ではある。


観光の街は指定の銀行に一定額を預けた上で条件を満たした家を買うか建てる事で住民登録が出来る、国王直轄領という事もあって金周りが非常に良い。

金持ち達の保養地としても有名でここの居住権を持ち別荘を構える事がこの国の金持ち達のステータスになっている。保養目的で訪れる人が多いという事もあって、プライベート空間を守ろうという事が暗黙の了解として存在している。

温泉が全ての家に送られていて、その排水を使った下水システムがあるため街の衛生状態は良い。汚物が海に垂れ流しになっているがて工業廃液では無いため生分解の範囲を超えておらず清潔。暖流と季節風の関係で気候は温帯ではあるが冬が余り寒くないため亜熱帯植物も育つ。海も温排水が海に流れ込むためか周囲より高く、汽水域で熱帯性の水生生物と植物の繁茂が見られる。

街は綺麗だしご飯は美味しいと評判だし温泉は楽しみだ。半国営の旅館、病院、飲食店、商店、美術館、植物園、動物園、観劇場、賭博場、娼館、遊覧観光船、遊泳場などがある。街の中心にある広場では国が一定期間街への滞在を許可された吟遊詩人やパフォーマーなどの無料公演が行なわれている。彼らの目的はパトロン探しで、公演期間に支援者を見つけ大成した芸術家なども多い。

楽しい街なのだが、お金を稼ぐ事は色々制限が多い。企業の多くは国王の監督下で割り込む余地は殆ど無い。唯一の自由市場は港近くの商店街だけなのだが、ここは元々あった温泉がある漁村が王家直轄領になり観光の街に開発される以前に住んでいた旧村人とその子孫に許された特権だ。その特権も直系子孫とその配偶者にのみ許されたもので、直系子孫もその代2名まで特権対象という縛りがある。妻の連れ子などは特権対象外なので、特権を持つ人が下手に結婚すると家族離散が起きる。

特権は直系子孫同士であれば譲渡出来るので、自力で観光の街への居住権を獲得したり、街の外へ嫁に出たりして出る時に3番目以降の直径子孫に高値で売れるらしい。国営商店に並ぶ商品は金持ち相手のものなので一級品だが金額が高い。村民が経営する旅館は国営よりも安いため観光以外の短期滞在者が多く泊まる。商店は地場産のものがメインではあるが比較的安い。商店街には場所は限られているけれど屋台も出店しているので、観光客にも人気だ。ただし観光地価格なので生活するだけではどんどんお金を浪費してしまう街なのだ。しかし金持ちが集まるので投資は盛んだ。一定以上の金があれば投資をするだけで生活出来てしまえる。銀行に預けたお金も非常に低利だが金利が付く。社会インフラが街の運営益で賄われるため各種税金が無料。銀行への預け入れ金と建物の外観の維持さえしていれば良いので暮らしやすい街だ。


迷宮都市は誰でもなれるという探索者が多いという事もあって人の出入りが多い。だから治安が少し心配な部分だ。しかし金を得るという事に関してはかなりしやすい街ではある。出所不明なものの売買が行われても大きな騒ぎにはならなそうな場所なので屋敷から持ってきた宝飾品などを処分する事がしやすいのではとリサは考えているらしい。ただしその為には探索者としてある程度実力を示しておかないと、色々疑われてしまう可能性が有る。探索者のランクをあげて周囲の信用を得てから宝飾品の処分という手順を踏む必要があると思っているようだ。ダンジョンに廃棄物や汚物を処理させるシステムがあるため街はこの世界ではかなり清潔なのもプラスポイントだ。


高原の村は村人総出で定期的に行われる酒造りの作業を手伝う事が唯一の移住の条件だ。

特に高原の村には貴族はおらず、準貴族という村長が治めている場所だった。初代村長は貴族だったそうだが、閉鎖的な場所だったため平民と交わり貴族の血が薄まってしまったらしい。だからか平民への差別が全く見られない。

刺激が少ない場所なため若者の流出が起きており、近くの街の貴族に一定額の税を納める事でギリギリ統治を許されている状態になっているらしい。街の領主の息子に村長の娘が側室として嫁いでいるそうで関係は良好らしく、その娘の子が次期村長になるという事も内々に決まって居るそうだ。空き家が多いため耕作可能な土地が家付きで貰えるのもプラス要因だ。娯楽という刺激が少ない事と、現金収入の獲得手段は限られているという欠点はあるけれど、そもそも現金をあまり使わない自給自足生活がしやすい土地柄なので、田舎でのんびりスローライフしたいなら良い場所だ。


誰からの推薦にも上がらなかった交易の街は人の出入りが迷宮都市以上にある。様々な人種と物が出入りするので外部の人を受け入れる土壌もある。世界有数オークションが行われているため屋敷から奪ってきたものの処分もしやすい。富裕層のから貧民街まで居住区が別れているが、富裕層から中流層の区域まで下水道が整備され廃棄物の回収も行われている。

しわ寄せが貧民街やスラムに押し付けられている部分はあるが場所さえきちんとすれば暮らしやすい街だ。

未成年者の犯罪者への教育施設があり更生の余地を与えている珍しい街でもある。


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