第22話 前世の体験

観光の街の港に近い商店街は様々な調味料やスパイスが並んでいてすごい香りが広がっていた、ほとんどがこの街が漁村だった頃の子孫が経営する店で、高台のお方のお硬い店に比べ気軽に飲み食いや買い物が出来そうだった。こういう緩急が楽しめるのもこの街の魅力かもしれない。


そしてついにこの街で運命の物と出会ってしまった。前世の僕が良く食べていた醤油と味噌と米が置かれて居たのだ。僕は思わずマリア母さんにお願いして買ってもらった。僕はこの世界には生まれ落ちて過去最高レベルで笑顔だっただろう。そして食べた時にそれは最高レベルは更新されるだろう。


一般的に流通している漁醤や小麦に比べて非常に高かったけれど、前世の知識からとても美味しい物だというのは分かって居たので買わずに居られなかった。


海の魚介類は川や湖のものに比べて非常に大きい種類が多かった。

港には大人の体より大きい魚が水揚げされていたし、街のお土産物屋には信じられない大きさの魚の頭の骨が置かれていたし、交易船が大きな魚や軟体生物に襲われている姿が描かれた絵も掛けられていた。

この軟体生物はイカかタコの触手だと思うのだが、図鑑では大きい物でも数メートルだと書かれていた。前世でもタコやイカは図鑑に書かれた通りの大きさだったけれど、海難事故が多い場所にはとても大きな海の怪物が居るという伝説があったらしい。この絵は前世と同じ様に想像上の産物なんだろうと思った。


早速その日に家の庭で炭火での魚介類の網焼きにしてもらい、網焼きの魚介類に醤油を塗って焼いて貰った。

ジューっという音と共に香ばしい匂いが広がってとても美味しそうだ。

塗ったフローラ母さんもその匂いに驚いている。

けれどかなり表面が焦げやすくなるみたいなので焼き上がる直前に付けた方が良いかもしれないと思った。


焼き上がりをお皿によそってもらったので食べてみたところ想像以上に美味しかった。

醤油はそのまま舐めてみるとすごく塩辛いので不安だったけれど、付け過ぎなければ風味が広がって美味さが倍増するみたいだ。

前世の知識では生の魚に塗って食べる事もあるようだけど、お腹を悪くしないか心配で食べては居ない。前世の記憶では、お腹が痛くなるのは、時間が経って傷んで居るか、魚に寄生虫が居るからで、新鮮なものや急速冷凍して寄生虫を殺したものなら問題無いとの事だった。母さん達も抵抗があるみたいなので、生の魚は無理に食べる事は無いかもしれないと思っている。


夕飯が終わり夜になったので浴槽に温泉を張ってみんなで入る。

前世でも僕は家族や友人と温泉に旅行へ行っていた。僕は今の前世と同じ体験をしている。

母さんたちのような美女達と温泉に入るなんて体験は無かったように思うけど、前世と同じ調味料でもある醤油にも出会えたしとても嬉しい体験が多い1日だった。


そういえば前世には僕より先に死んだ両親の他にもう一人家族が居たと思う。温泉で家族風呂に入った時に、僕と同じように小さな存在がいた記憶があるのだ。

青年になった頃の思い出に登場した記憶が無いため、先に社会に出て疎遠にでもなったのだろうか。

死んだと思われる直前の光景もそうだし多くの記憶が曖昧だ。なにせ1人分の人生の記憶だ。この世界の新たな体験に押し流されて頭の片隅に追いやられてしまっているのかもしれない。

でもその人を思い出せるのが僕一人であるのなら思い出してあげたいと思う。だって誰からも忘れられた存在はその世界に最初から産まれて居ない状態と何も変わらない。

僕は前世の僕という存在が確かに生きていた事を知っている、同じ宇宙の存在かすら分からないけれど確かに生きていたのだ。

そして、前世の両親から言われた言葉もいくつか覚えている。だから両親はこの世界に残っている。今の僕のいくらかを構成させている。でなければ4歳で手足と視力を奪われた中で何をしたら良いのか分からず、この不思議な能力にも目覚め無かったかもしれない。

その僕も、マリア母さんも、リサ母さんも父かあの女によって殺されていただろう。

そしてフローラ母さんは人知れず餓死か衰弱死をしていただろう。


もしかしたら悲しい記憶過ぎて思い出さないようにしている可能性もある。思い出した時に後悔してしまうような記憶かもしれない。


○○って✕✕だよね。


前世の僕はこの思い出の人に、この同じ言葉をかけたれていた記憶が残っている。

前世の思い出にある家族らしい人、あなたにとって前世の僕はどんな人間でしたか?

僕はそれだけでも思い出したいと思っています。


僕は考えながら少しボーッとしていたようで、マリア母さんから、すごいいい景色だねと言われた。リサの母さんもフローラ母さんも同じ景色を見ている。

砦にあった風呂に比べたらとても狭いけれど体を寄せ合えば4人でも入れる。

風呂場の窓は取り外しが出来て外すと湯舟から海まで続く街の姿を見る事が出来る。

覗こうとすれば裸を見られてしまうけれど、風呂場の明かりを消しているのでハッキリとは見えないのではと思う。魔力を目に通して覗いて来る相手がいるかもしれないが、前世の望遠鏡の様なものは出回って居ないので、大して見えはしないと思う。

僕は魔力が使えないから知らないだけで、魔法にも千里眼のような力があるのかもしらないけれど。


夜なので風景がハッキリ見える訳では無いけれど、建物の壁が全て白い事もあって月明りでも陰影がハッキリしているし海もキラキラ光って居て幻想的だった。

潮の香りはするけれど海からは距離が離れているため波の音は聞こえない。

温泉はそこまで温度が高い訳ではないけれど、成分のおかげかとても体がぽかぽかしていた。

外の風は涼しくなってきているけれど、ぐっすり眠ってしまいそうだけど、少しだけ思い出の人の記憶を探す時間を作ってから寝ようと思った。

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