第11話 これからの事

風呂から部屋に戻ると、長い小屋での生活で魔法を使った簡単料理に慣れていたマリア母さんが干し野菜とベーコンのスープを短時間で作った。

リサも放出系の魔法は不得意というけど人並み以上に魔法はうまいと思う。屋敷から持ってきた柔らかい白いパンにチーズを乗せて火魔法で白いパンを焦がさずチーズを炙って溶かすという器用な事をしているからだ。

俺は念動力で果汁を絞りグラスに入れて凍結でキンキンに冷やす。

5分もかからず立派な朝食が完成した。


パンケーキの朝食より特別感は無いけれど、着るものは新しくなっているし、2人はいつもより綺麗だし、とても特別な朝食の様に感じていた。


朝食を食べながら、マリア母さんとリサはこれからの事を話し合っていた。

父親から逃亡する事を目標としていたため、それ以降の事については二の次になってしまっていたからだ。脱出した後の夢を語ってはいたけれど、あの時は逃げるまでの調査に集中していた。


現状の確認がしたいと言われたのでマリア母さんとリサを廃坑と廃村の倉庫に連れていった。

屋敷から持ち出したものを全て見て考えた方がいいらしい。


持ち出したものを一通り見たマリア母さんの見立てでは3人で遊んで暮らしても使い切れない量の資産になるとの事だった。しかし現金はそれなりに多いけど資産の割合としてはそれ程多く無い、換金性の悪いものが多いので、そういったものを現金化するならツテを作る必要があるだろうとの事だった。

リサは逃亡が露見するリスクのある希少なものは現金化はしばらく控える方がいいだろうとの言った。またこの国は金貨には混ぜものが多いので他国に持っていくと交換率が悪いと有名らしい。この国で換金性の高い宝石や宝飾品を買って、交換率の高い通貨を持つ国で売った方が良いのではとのことだった。

それと出入りする場所の衛生状態を調べた方がいいらしい。この世界の人は飲水を水魔法で作り出せるので上水が無いのは普通。掃除や洗濯や田畑にまく水として川の水を使っても川の水を飲み水にはしない。そのまま飲むと体調を崩すと知っているからだ。火魔法で自然の水を煮沸するなら水魔法で水そのものを作れば良いという考え方らしい。

魔法のおかげで人は水のない場所でも生きていくことができるため水資源の乏しい街は結構存在するらしい。そういった街では汚物を土に埋めたり、酷ければ道端に放り投げ乾燥して風で飛ばされるままにするという街もある。そういった街は外部の人が訪れると病気になったりしやするそうだ。そこに住む街の人はあまり病気になったりしないそうだけど、そういった不衛生な街を訪れた人が、近隣の街に病気が広げてしまう事があるらしい。だから衛生状態はどうなのか良く調べた方が良いらしい。

保存食や調味料は充分あるので、せっかく自由になったんだし綺麗な街を見つけ、美味しい物を探したりしようという話になった。


この砦は隣領にはあるけれど父親の領からそこまで離れて居る訳ではない。

屋敷に忍び込んだ盗賊の拠点候補と考え、捜索隊を派遣される可能性はあるらしい。だから近隣の村に出入りしたり大きな音を立てたり昼間に煙をあげたり夜に光を出す行為は控える事になった。さっき風呂の片付けの時に大きな音を立ててたマリア母さんとリサの言葉とは思えなかった。

廃村と廃坑も捜索される可能性があるので、早めに次の拠点を探して移った方が良いとの事だった。


瞬間移動の力があれば絶海の孤島や人跡未踏の山の中で生活しても支障は起きないと思う。遠くからやってきた風を装えば街に入る事が出来るだろうし。買い物も不自由しない。貨幣の形は違っても貨幣は貴重な金属の含有量と重さで最低限の両替は保証されている筈。マリア母さんとリサが安心して暮らせるよう、これからは、そういった拠点が作れるポイントを探したいと思った。

千里眼の力が伸びていけば遠くが見えていくだろうし、自ずと良い場所が見つかると思う。


マリア母さんとリサの話は街に行くときどうした方が良いかという話になった。

いつかは物資か尽きるので買い出しには出なければならないけれど目立つ事をして正体を知られるわけにはいかない。

しかしマリア母さんはこの辺では珍しい金髪碧眼で派手な顔立ちをした超美人でとても人目を引く。本人は自覚に乏しいようだけど、リサはそこを注意していた。特に若返ってしまっている事もあって侮られやすいし、口調もおっとりなのでトラブルに巻き込まれやすい。捜索がかかっていた場合はすぐに見つかり追手を差し向けられそうな危うさがあるとリサは説明を続けた。


マリア母さんと違い、僕とリサは溶け込みやすい外見をしている。


僕はこの国では珍しくない顔立ちをしているし黒目黒髪とどこにでも居る組み合わせなのでまず不審に思われない。リサも顔立ちはとても整った美人であるけれど、派手な見た目ではなく落ち着いた雰囲気。琥珀色の目と銅色に輝く赤髪もこの地域に比較的多い組み合わせだ。


買い出しには瞬間移動が必須となるので僕は外せない。けれど幼児であるため大人と一緒でないと不信感を抱かれる。だから買い出しは消去法で僕とリサが行くことが決まった。マリア母さんは少し不満そうだけど遠い場所に拠点が作れたら出歩けるようになるからとリサが宥めていた。


街ではリサがナンパされる事を防止するため、僕とリサは親子という設定を演じる事になった。マリア母さんが、悪乗りしてしてリサをこれからお母さんと呼んで生活するよう命令してきた。とても気まずいけれど一時的なものなので諦めることにした。


僕はなるべく海のある方向に向かって千里眼を飛ばすつもりで居る。千里眼の到達する距離が伸びると見える面積がとてつもなく増える、けれど一回に詳しく見ていく視界を広げる過ぎると俯瞰的どころか鳥瞰的になって街の詳細まで分からなくなる。だから街道沿いを鳥瞰的に調べ、そのあと気になった街を俯瞰的に調べ、悪くなさそうなら詳細に調べていくといった手順となる。そのため必要な物資や情報が得られそうな方向から調べた方が良いと思う。

塩の入手は大事だし交易港なら情報を集めやすい。前世のは大陸が複数あった。父親の手の届かない海の向こうの大陸の情報も見つかるのではと期待している。

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