第12話 軟禁されていた使用人

砦で生活するようになって1月が過ぎた。

季節は夏から秋に差し掛かってきており、人の出入りが耐えている砦の周囲では木の実や山菜や茸がいっぱいなので、毎日楽しく散策しながら収穫している。山間部で朝霧が多い砦周辺は屋敷の敷地の森林に比べ手入れされて居ないけれど植生に多様性があって、見た事も無いものも生えている。わざわざ冒険する意味も無いので毒の判別が付かないものは収穫はしていない。あくまで体を動かしながらお宝を探している様な感じで知っているものだけを収穫している。それでも自分たちで食べきれる量を超えてしまうので無理して取る必要性を感じていない。

定期的にリサと街に買い出しに行くようになったので食生活はかなり豊かになった。収穫物だけに頼る必要も無くなったのも無理して取らない理由でもある。小屋での生活の最初の頃はリサが少量だけ料理に混ぜて食べしばらく体調の変化が無いか確認すると言った事もしていたらしい。今はそんな危ない事をする必要などないのだ。

そんな話を散策しながら聞いた僕は、リサが死んだら嫌だからもう二度としないでと言って泣いてしまった。リサは僕の目をジッと見てわかりましたと言ってくれた。マリア母さんは僕を抱きしめて2度とさせないと言った。


買い出しには同じ町に連続で行くことしないようにして足が付きにくくしているらしい。

交換率の良い現金が欲しかったので、リサは隣国で種類が分かっていて比較的小粒な宝石を売りに出した。僕も良く熱変化と念動力と千里眼と透視の訓練で使っているプラチナの小さな塊を飾り気の無い指輪の形に成形して売った。

数店に金額を聞いてから一番高い値を付けた店に売ったのでそこまで間違った値段では売ってないと思う。


プラチナは念動力で簡単に加工できるほど軟らかく熱すると目が潰れそうになるぐらい眩しく輝きだしてしまう。だから千里眼と透視を連想させて見ながら念動力で加工しなければならない。それがなかなか難しくていい練習になった。


なるべく広い地域で取引可能な通貨をいくつか手に入れた。特に海に面した国は共通規格で金貨や銀貨の重さを決めていたのでどの国で使う時も交換率の悪さに苦労しなくて楽だった。内陸国の中には通貨に混ぜ物をしている国があり他国では信用されにくかった。

リサとは一応親子を演じて居るけれど、姉弟と見られる事の方が多い。リサはマリア母さんと同年なので姉弟というには歳の差がある筈なのだけど、リサの見た目が若返ってしまっているのでそうは見えないみたいだ。

見た目が実年齢と合っていない事は逃亡に有利なのでわざわざ年齢を訂正して回ったりしていない、ただしリサをを値踏みするように見てくる男は多いのがなんか不快だ。無理にナンパしようとする男は今のところ居ないので、幼児連れである事が多少の虫よけにはなっているようだけど、強硬手段に出て来るなら痛い目を見て貰う気でいる。


父親の方は領地の増税を行い金をかき集める事にしたらしい。

屋敷の修理費も出せない状態なので仕方ないのだろう。鉱山を担保に出入りの商人達の支払いをツケにしてもらっていたので、回収に失敗すれば鉱山を失いかねない事態になっている。市中の金利よりかなり安い契約だったけれど、見栄を張って屋敷を再建すれば首が回らなくなって鉱山という主要な収入を失っていく事だろう。あの見栄っ張りの父親に可能かどうかは未知数だがもう興味は殆どないため特に調査はしていない。

使用人たちの給料もしばらくは無いらしい、元々給料が高かったたみたいなので生活に困窮する使用人は少なそうだ。しかし自宅を留守中に現金が消えていくという盗難事件が頻発しているので使用人同士で疑心暗鬼になっている様子だ。誰にも知られず侵入し現金だけ奪って逃げていくなんてまるでどこからか突然現れて消える事が出来る泥棒がいるようじゃないか、一体どこの少年が犯人なんだろう。


首輪を付けられ軟禁されていた使用人だけど、首輪が外され屋敷に出入りしていたのでどうやら開放されたみたいだ。

脱出後に調べたところ、その使用人は父親の従妹で俺にとっても従叔母にあたる結構近い血縁者だった。首輪を付けられ軟禁された理由は小屋での生活させられている僕達をどうにかしようと父親にかなり強く訴えたかららしい。却下されたことで僕達を脱出させる計画を立てたらしく軟禁された事になったとの噂が使用人達の間に流れていた。


マリア母さんとリサに聞いてみたろころ、その白髪という珍しい特徴を持つ使用人はフローラという名前で、マリア母さんとリサとも面識があるそうだ。マリア母さんと同時期に妊娠したけれど、残念な事に死産だったそうで、しばらくは乳の出が悪かったマリア母さんの代わりに乳母をしてくれていたらしい。

僕にとっては母親みたいな存在じゃないか。


僕が体のコントロールを覚え、混乱している頭を整理し、使用人達の様子まで認識し始めた時には乳離れしていた。その頃にはフローラ従叔母さんから話かけられる事もなく、屋敷内ですれ違う人という感じだった。前世の知識との整理に忙しい時期だった事もあってそれ以前の事は僕もあまり覚えていなかった。マリア母さんと同年代らしいけれど、今はそうには見えないぐらい高齢に見える。覚えて居ても気が付かない可能性もあったかもしれない。

マリア母さんやリサの話では僕が魔力無しだと周囲に知られたあたりからフローラ従叔母さんが心配そうに僕を見ている時があったそうだ。


気になってフローラ従叔母さんの事を観察していると、家の窓から僕達が軟禁されていた小屋が見える窓があるようで、小屋の焼け跡の方を見て悲しそうな顔をしていた。仕事の時間は気丈に過ごしているけれど、かなり精神的にまいっていそうな様子も分かった。痩せているので元々食が細かった可能性があるけれどそれにしても食事量が少ない。マリア母さんやリサに聞いてもそこまで痩せて居なかったというので、何か異常な状態である事は間違いなさそうだった。


出産したという事は結婚しているんだと思わうけど、家にはフローラ従叔母さん以外に誰もおらず訪れる人も見かけない。一人寂しく暮らしている様な感じだった。


フローラ従叔母さんのそんな様子から、マリア母さんとリサに危ない時には無理にでも助けたいと伝えたところ賛成してくれた。

僕は用事が無い時は可能な限りフローラ従叔母さんの様子を千里眼で確認して過ごすようになった。

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