第10話 砦の風呂

壁も天井も穴だらけで外から丸見えの風呂だけど砦周辺には誰も居ないしまだ暖かい季節なので気にしなかった。

むしろ雄大な山の景色がのぞいて居てこのままの方が良いと思った。

朝日に照らされた二人は綺麗で、6歳の肉体だったためか発情する事は無かったけれど少し照れくさく感じてしまった。


屋敷に居る時は、リサかマリア母さんのどちらかと一緒に風呂には入っていたけれど、こんなに大きな風呂では無かったので3人で一緒に入った事は無かった。

小屋に移ってからはさらに風呂場が小さかったので、視力が回復したあたりから一人で入るようになっており、誰かと一緒に風呂に入る事自体が久しぶりになって居た。


季節は夏真っ盛りなので暖かい筈だけど、魔法を結構使う事で体が冷えてしまっていたのか、2人は蕩けた顔をしながら目をつぶっていた。

こんなに広い風呂なのに風呂場の隅っこに3人で固まって入ってしまうのは、小さい小屋で暮らしていた時の名残かもしれない。

僕は体が小さい事もあってすぐにのぼせてしまうので風呂の淵に腰かけてバシャバシャとバタ足をして二人が満足するのを待った。


蕩けた顔から普通の表情になったマリア母さんが久しぶりに背中を流しあいましょうと言うので石鹸とタオルを念動力で取り寄せた。

屋敷から拝借してきたハーブの香りのついた高級な石鹸と柔らかいタオルを持って生来ていて、こんなに高級品を使うのは屋敷を追い出されて以来となる。


マリア母さんとリサは今では10代中盤と言われてもおかしくないぐらい見た目が若返っている。

小屋に居る時はわざと前髪を伸ばしたり外に出る時は泥で汚していたりと若返った事が分からないようにしていたけれど、今は洗い流され肌が少し赤く上気していて若さそのままに綺麗だ。

タオルに石鹸をこすりつけ泡立てると背中を流しあった。

僕がリサの背中を流し、リサがマリア母さんの背中を流し、マリア母さんが僕の背中を流す。

大人の男性と同じぐらい背の高いリサだけど、女性であるためか背中は細くてそんなに大きくない。手足が長いから背が高いだけだ。

こんな小さな背で僕を守ってくれてたんだよなと小さいけれど頼もしく感じる。

でも小屋に居たときはリサの背中はとても大きく感じていた。脱出出来て力が少し抜けてくれたからだろうか。それとも風呂場が大きいから、相対的にリサの背中が小さく見えるだけだろうか。


前世の記憶があって大人の様な思考も出来たりするけど、精神的にはまだ6歳で承認欲求が強い、だからか少し張り切ってリサの背中を一生懸命洗っていた、マリア母さんには僕が動き過ぎるから背中が洗いにくいと言われ背中から抱きとめられてしまった。まだ手足が短いので腕だけで背中を流してあげるのは難しい。


マリア母さんは僕の背中を流す時すごいゆっくり丁寧におこなう。そしてとても気持ちいい。だからいつの間にかうたた寝をしてしまっていた。

マリア母さんは僕の全身を洗ってくれたようで気がつくとマリア母さんに抱っこされて湯船に浸かっていた。リサも僕の顔を覗き込んでいた。

僕が目を開けたからか、マリア母さんは僕にありがとうと言った。

俺はマリア母さんの首の後に手を回してギュッと抱きしめた。マリア母さんはいつも温めたミルクのような甘いいい匂いがするけど今日は高級な石鹸の匂いが混ざっているからか、いつもよりさらに甘い匂いた。

マリア母さんに抱きついている僕をリサが背中の方から抱きしめた。背中のリサは少し震えて居るのでもしかしたら泣いているかもと思った。僕は体を捻ってマリア母さんの首に回している手をリサの首の後ろに回して抱きしめた

マリア母さんは僕の体を抱く力を弱めたのでリサが抱きとめる形になった。その時リサは声を出して泣き出した。マリア母さんがさっきのリサのように、僕を背中側から抱きしめたけれどさっきのリサのように震えていた。そしてリサに合わせていくように声を出して泣き始めた。僕ももらい泣きしたのか大声をあげて泣いてしまった。リサの体からは普段は太陽に干した後の布団の様ないい匂いがするけど高級な石鹸のおかげかマリア母さんの様な甘い匂いを微かに感じた。


僕が泣きつかれてしゃっくりをし始めた時2人の泣き声は止まっていた。だからか僕のしゃっくりもすぐにおさまってくれた。

朝の涼しい風が頬に当たって気持ちがいいと感じた。湯に浸かりながら2人に抱きしめられていたけれど、湯が少し冷めていたのでのぼせる事はなかった。

いつまでもこのままで居たかったけれどまたお腹がグーっとなってしまった。

風呂に入る前に食べた筈なのに念動力をいっぱい使ったからか、泣いて疲れたからか、もうお腹が空いてしまっていた。

マリア母さんがもう一回朝ごはんにしましょうと言うので風呂場からでた。

屋敷から持ってきた新品の肌着とタオル地のローブを着て、木と皮で作られたサンダルを履いて部屋に戻る。

ついでに念動力で風呂の水を持ち上げ砦の壁の外に放り出した。

排水口が詰まっているのか栓が無くなっているのに砦の風呂は水が減る様子が無かったからだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る