第4章 安定生活編

第27話 春の訪れ

迷宮都市の事は1月も経たずカタが付いた。

準貴族は貴族からかなり怒られたらしく蟄居させられていた。

領主は恐妻の奥方と激しいやり取りをしていたけれど、それは貴族家の当主として頑張って欲しいと思う。

使者の男は酒のコレクションがあった場所で茫然自失になっているのを見る事が出来た。思ったより大切なものだったのだろう、有難く活用させてもらおうと思う。

情報を売っていたギルドの受付嬢は、ギルドから居なくなっていた。何らかの処分を受けたのだと思われる。住んで居た場所からも消えていたので借金でもあったのかもしれない。

使者の男と準貴族は蟄居の意味が分からないようで、軟禁場所の家を抜け出し宿屋に怒鳴り込んでいたけれど、僕達は既に居ないのでどうしようも無いだろう。主人に渡した迷惑料が充分だったか不明だけど、実害は無かったようだし、丁寧な挨拶で送ってくれたのでこちらへの恨みは無いと思う。丁寧な接客で居心地の良い宿だったので、人気が落ちるような事は無いだろう。

母さん達はもっと落ち着いてきたら挨拶に行きたいねと話している。


リサ母さんが自称領主の使者を殴り飛ばした日に作ったスモークチーズは大成功だった。マリア母さんが晩酌する時に良くワインのアテにしている。

生ハムの方はあと1ケ月熟成が必要らしい。

冬の間の水路が凍結してないかという朝の仕事から、家の地下の冷蔵庫兼熟成室の温度調節が僕の仕事になったので、どうしても気になってしまう。


観光の街に金持ちの息子がまた来ていたようだが、それを察知して訪れないようにしていたので顔を合わせては居ない。いつも同じ宿に泊まって居るようなので、そこを確認するだけで居るか居ないかすぐにわかってしまうのだ。

ポストにマリア母さんへ愛を囁くポエムらしいものが書かれた紙が投函されていたけれど、マリア母さんは返事をするつもりがないようだ。数通読んだあと燻製窯の炊きつけや、炭火での網焼きの着火剤として処分していて、一切の脈が無い事は誰からの目からも明らかだった。


高原の村の周囲の高い山には厚層な寝雪もみられるけど村の周囲は既にない。放牧地は新緑に覆われ家畜達が美味しそうにそれを食んで居る。冬ごもりの間に産まれた子牛が母牛に寄り添い時には乳を飲んでいる。

これだけの数の乳牛がいると搾乳はかなりの重労働らしく、村人の多くが手伝いをおこなっていた。

冬の間にツルだけになっていたブドウは葉っぱがどんどん開いてきていて太陽の光を浴びている。もうすぐ開花時期らしいけれど花びらは特に無いらしく遠くから見ただけでは変化がわからないそうだ。

幾つかの畑も耕されていて、冬の間に落ちたブドウの葉っぱと家畜の糞で作った肥料が施されていた。

汚物の処理システムがあるので

周囲の山林で山菜が出てくる時期なので多くの村人が獲りに行っている。

人口に比べて山林の規模が大きいため特に競争とかは無いらしい。

採り過ぎたとおすそ分けが来るぐらいなので山の資源がとても豊富なのだろう。

フローラ母さんは山菜の調理法を教えて貰うために顔なじみになっている村の女性宅に行っている。

僕は村の子供達と野山や山林を駆け回り大人に叱責されたり教えられたりして過ごす。

冬眠明けで腹を空かせた獣に注意と言われているけど、ある程度の魔法が使える子が居れば滅多な事にはならないので本当に注意だけという感じだ。

迷宮の魔物と違って地上の獣は魔法を一切使えないからだ。

他の街の周囲なら盗賊を恐れるけれどこの村に続く山道には拠点を作れるような場所は無いらしいし、さらに奥地は開拓計画すら立てられない住むのに適さない場所らしい。

人が呼吸困難になるほどの高い山がいくつもそびえて居て、その山々を超えれば平原はあるけれど、地面が分厚く凍結していて、寒冷な場所だという事は分かった。さらに北に行くと海があって海獣の狩りを生業とする原住民が居ると言う話があるらしいけれど、どこの国にも所属おらず交易も無いため情報は殆ど無いらしい。

千里眼で見た事があったけど山脈はかなり幅広く高かった。そしてその先には確かに地面が凍結している平原があって人が水辺に少し住んで居る程度だった。さらに北の海は流氷で覆われて居てその上で毛皮を何枚も重ね着して仮面を被った人が、海獣を銛で突いていた。魔法は使っているので人ではあるようだけど、格好のせいで人相どころか性別すら不明だった。わざわざ透視で見る事もないのでそのまま千里眼を終わらせた。

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