第28話 冬ごもりの成果
春の柔らかな風が優しく頬を撫でる季節になった。
街の貴族の息子の側室になっている村長の娘とその子である孫が乗った馬車が商隊の馬車と共に村にやって来た。
村に外から人がやってくるのは4ケ月ぶりという事になる。
冬の間は街と村をつなぐ路面が凍結して車輪が滑り斜面を登る事が困難になるため往来が無くなってしまう。
村長の孫が来たことで村の子供たちの遊び仲間が1人加わる事になるらしい。
村長の娘だけは村長宅に1月程滞在したあと税と村の産物を持って帰っていくけれど、息子は村長宅で預かるので秋の収穫祭後に帰るまでは一緒らしい。
村長の孫は早速この春に8歳になった女の子と手を繋いで遊んで居た。
女の子が冬の間にやたらと僕に絡んで来たのは村長の孫が居なくなって寂しかったかだったんだろう。
村長の娘と一緒に旅の商人の馬車もやってきた。
冬ごもりの間に内職していた村人などはその成果を売って現金収入を得るらしい。
家畜の毛で作った織物や木の細工物や陶磁器や乳製品や木炭や山菜で作った保存食などがその場でどんどん値が付けられ馬車に乗せられていった。
特に高値で売れたのは干した椎茸を詰め込んだ袋だった。
キノコ類の人工栽培がおこなわれて居ないため高値で売れるんだろうと思った。
村長宅の横の倉庫からはくつもの酒樽が運ばれそれもどんどん馬車に乗せられていった。
僕とフローラ母さんは、冬の間に大量に作った燻製を商人に見せていた。商人が是非買い取りたいと言ったので周囲の村人に適正価格を教えて貰い買い取って貰った。村では家畜の燻製は珍しく無いけれど獣の燻製は珍しいらしい。本の知識で得られたハーブと岩塩で調味したものなので美味しいし、生ハムも始めてのものだったので驚かれた。少しウェットなので温度管理に注意が必要だけど、まだ涼しい季節だし、街で出せばすぐに捌ける味だから大丈夫と言われた。
スモークチーズは他の家でも売りに出していたし、マリア母さんの好物なので売らないようだ。むしろ他の家が出しているスモークチーズが欲しくなったようで買っていた。
鞣しをしていない毛皮も買い取れるとの事だったのでそれも周囲に適正価格を聞いて引き取って貰った。
迷宮都市のギルドの元受付嬢の所から持ってきた装飾品類も換金できるかと見せたら出来るというので買い取って貰う事も出来た。
何故か村の婦人たちが集まってきて、いくつか買い取りたいと言ったので、商人に大体の価格を聞いてそれより割安で売る事にした。商人にもお礼を言って同じぐらいの割安で売ったら、お礼だと言って水あめの入った壺をくれた。
装飾品は割安で売ったのに、収入の割合は燻製4:毛皮:6装飾品90だったので、それなりの現金収入を得てしまった。
村人が買うのは岩塩と砂糖と香辛料と穀物と農工具などの刃物と綿で作られた布製品や石鹸や海の乾物だった。
革のブーツや本を買った村人も居たけれどそれは注文品らしく頼まないと持ってきて貰えないらしい。
村長を含む数人の村人は岩塩と違う白っぽい石を買っていた。
何かと聞いたら砂漠地方で取れる石で肥料になるらしく砕いて畑に撒くらしい。
前世の知識から硝石という石だろうという事が分かった。
取扱いを間違えると危険な石と知っているので近寄りたくないなと思ってしまった。
思いのほか現金収入が得られたので僕達もいくつかの商品を買った。
フローラ母さんは石鹸は残りが少なくなってきたので買うのかと思ったけれど、獣脂を使った質の悪そうなものだったので買わないみたいだった。
フローラ母さんは肌着を作ると言っていたけれど違う目的もあると知っている。
フローラ母さんは元気になったおかげか生理が再開しだしている。そのためあて布が予想以上に使われる事になって質の良い綿の布が欲しいと思っているのを知って居た。
前世の知識で子供が知らない方が良いデリケートな話題らしいので黙ってうなずいておいたけれど。
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