第26話 迷宮都市からの撤収

迷宮都市はしばらく不在にする予定だが、宿に迷惑をかける事になるかもしれないので、フロントが少しだけ不在になったタイミングで、しばらく不在にする事と、迷惑料代わりに1週間分の宿賃を入れた皮袋をカウンターに乗せておいた。これはリサ母さんからお願いされたもので、戻りたくなった時のためのものらしい。


迷宮都市で接触してきた使者を名乗る男の周囲を調査した結果、どうやら召し上げると誘ったのは貴族本人ではなく貴族に仕えるだけの準貴族という事が分かった。

ゴロツキっぽい人を連れて宿に訪れ、宿の主人を怒鳴りつけていたので、母さんたちを出せとせも言っているのだろう。

宿屋の主人は毅然とした態度でそれを断ったようで憤慨している様子だったが、宿の客らしい準貴族や裕福そうな商人風の男性の視線に耐えられなかったのか出ていった。

宿の近くで馬車を止め宿の入口を観察している様子だったけれど、母さん達が出てくる訳は無く夕方になると諦めて帰っていった。そして主人である準貴族の家に着くと説明をし怒鳴られていた。

翌日から毎日の様に宿を訪れ宿の主人に絡むと手紙の様なものを手渡し、その後は宿の扉を観察する日を繰り返すようになった。フロントの近くには客が待機できる椅子もあるのだけれど、即時の退去を言われているらしく、手紙を渡したら宿から出て宿の観察をしているだけをしていた。


貴族の事を調べると恐妻家の家らしく、妾を抱え込んでいる様子も見られなかった。貴族は血統を重んじ平民を蔑視する傾向があるため、平民という設定のマリア母さんを抱える可能性は低い。国が変われば考え方も変わるので、違う可能性もあるけれど、総合的に考えて準貴族の独断だろうというのが母さん達の出した結論だった。


ギルドの受付嬢から、中層とはいえ子連れで迷宮に出入りしきっちり収穫物を持ちかえる僕達の事が比較的初期に準貴族の所に報告されている様子が見つかった。迷宮の強い魔物から得られるものをギルドに収める事はして来なかったけれど、強い魔物が居る場所を超えた場所で無いと多くの収穫物を得るのが難しいものがあったからか、受付嬢の報告書からは、それなりに実力がある美少女が居るパーティーだと書かれていた。


リサ母さんは、ギルド加入時に探索者の前世でいう個人情報を守る守秘義務が職員にはあるといった様な説明を受けていたらしく、僕はこれについても調べるようマリア母さん達にお願いされた。


受付嬢から得た情報から、この準貴族も僕たちの事を調べたらしい、結果、リサ母さんは子連れで、フローラ母さんはそこまで若くなく表情が暗いといった理由で、召し抱えるという事にはならなかったらしい。しかし、マリア母さんは見た目がかなり良いこともあって強引に召し抱えてしまえという事になっていたらしい。


準貴族の家臣が貴族の名を使う事は不味いのではと思ったけれど、この準貴族は貴族の恐妻の親族で、さらに外面の良さで気にられていた。

しかしそれに増長していたようで、貴族の監視外では外ではかなり程度が悪い様子が見られた。


領主である貴族は他の貴族の例に漏れず平民蔑視がかなり強く、こちらがどうなろうと関心が無さそうだった。だからこの準貴族の横暴を訴えても何ら関心を示さない可能性が高そうだと思った。


受付嬢は探索者の情報を様々な場所に売り付ける報酬を得ている事が分かった。浪費家で借金がある様子から、理由は容易に推察出来た。


僕はそれらの情報を母さんたちに伝えたところ、迷宮都市から完全撤退する事が決まった。準貴族の横暴もあるけれど、ギルドがそこまで信用出来ない組織だという事が一番の理由だった。

軌道に乗って来た迷宮都市での生活を邪魔された事に対しては、準貴族の家の貴重品を頂く事で清算する事にした。

美術品や宝飾品にはあまり興味が無いのか金庫の中にある現金ぐらいしか無かったけれど結構ため込んでいた。

金庫の中にあった怪しげな書類がいくつかあったので、後ろ暗くて銀行に預け入れとか出来なかったのかもしれない。

怪しげな書類は貴族の執務室の机の上に返しておいたので、色々騒がせるけど許して欲しいと思う。


ついでにリサ母さんの腕を掴んだ使者の男の家からも慰謝料として家の中のものを貰っておいた。こちらは現金は少なかったけれど、地下にお酒のコレクションがあったので根こそぎ高原の村の倉庫行きになった。酒に目が無い人が多い村なのでおすそ分けの返礼品として大いに活躍してくれると思う。


受付嬢へは、買いあさって居た宝飾品を奪っておいた。箱すら開けていないものもあったので、何の為に買っていたのやらよくわからないものだらけだ。貴族が身に着ける様な一点ものではなかったけれど、平民の贅沢の範囲というには高級品過ぎる品が多いのが印象的だった。

探索者達の情報を売り飛ばしていた証拠の書類は、ギルドの責任者の机の上に置いておいたので、そちらから何かしらの制裁は受けて欲しいと思う。


僕とリサ母さんは宿屋に行き使者が残したという手紙を受取ったあと、迷惑料を支払いつつ引き払う事を告げた。

宿の主人からは残念がられたけれど、使者とのやり取りからなんとなく事情を察しているようで深いお辞儀で送り出してくれた。


迷宮へは瞬間移動で入る事は可能だったりする。

リサ母さんは、迷宮都市でギルドランクを上げる理由の1つは、現金収入を得る事ではあったけど、迷宮の宝箱から出たという体で父親の屋敷から持ってきたものが処分したいという思惑があると言っていた。

観光の街で家を買うためと口座にお金を入れるなど色々出費があったため現金が少なくなっているそうだ。特に派手な生活を行っている訳では無かったけれど何があるか分からないので、リサ母さんはある程度の保険が欲しいと思っているようだった。

珍しい迷宮の魔物らかえられた物や深層の収集物の宝箱から出たものが匿名でオークションに出せるため、足元を見られる事が無く高値で処分できる可能性が高い。けれど受付嬢が情報を外部に流しているなら危険を呼び込む可能性が高いらしい。

観光の街で家を買うためとかなりのお金を口座に入れたため現金が少なくなっていた。特に派手な生活を行っている訳では無かったので、すぐにどうこうなるわけではないらしいけど、何があるか分からないので、ある程度の保険は欲しいとリサ母さんは思っていたらしい。


瞬間移動を使えるのは僕だけなので、遠い地で何かあった時に隠しているものが回収困難になる可能性があった。ある程度の現金や換金性の高いものは必要だとリサ母さんから聞いていた。

観光の街は銀行貯蓄があるし、迷宮都市は現金を得る手段があった。だから現金収入が少ない高原の村の家に当座の現金を置いてるだけらぢしいけど、周囲の善意にゆだねるのはまだ危険というのは分かるので、現金を増やす事には今後も協力していきたいと思う。

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