第25話 領主の使者を名乗る男

高原の村で夜の時間が長く感じなくなり、春の気配すら感じるようになって来た頃、僕たちは迷宮都市で周囲の信用を得られる程度の探索者になっていた。見た目が美女と美少女である3人が居るため好色な目で見られる事が多いけれど、母さん達は相手をせずに居たので平穏に過ごしていた。


ある日、拾得物を現金化するため僕とリサ母さんで迷宮都市の宿から外に出かけた。宿の主人に鍵を渡した時にいつもと違う感じがしたれど、別の宿泊客と応対中だったのでいつものように鍵をテーブルの上においてそのまま宿を出てしまった。

宿の前に少し豪華な馬車が泊まっていた。

ギルドに向かおうと馬車の横を通過しようとしたところ、馬車から降りてきた男に声をかけられた。

そいつは自身を、都市を治めているという貴族の使いと説明した。

リサ母さんは怪訝な顔をしたけれど、礼儀として返事をし話を聞く事にしたようだ。使者と名乗る男は、リサ母さんに馬車に乗るように言ったけどリサ母さんは用事がありとキッパリ断った。使者を名乗る男は顔を歪ませ憤慨の姿勢を見せたけど、リサ母さんが応じる様子が無いので一方的に要求を始めた。内容はパーティーメンバーであるマリア母さんを召し抱えるので、リーダであるリサ母さんと共に屋敷に出頭するようにという命令だった。リサ母さんに馬車に乗れと言ったのは屋敷に連れて行くためらしい2。

その日はマリア母さんとフローラ母さんは高原の村で燻製造りをしていていて宿には居なかった。リサ母さんもこんな怪しい奴についていく訳が無い。

リサ母さんは使者に対し、マリア母さんは今日は居ないので伝言だけすると説明した。使者はすぐに連れて来いと言ったけど、リサ母さんは相手をしなかった。

僕がリサ母さんに早く行こうと言うと、使者の男は僕を殴ろうとした。リサ母さんは、使者の男を蹴り飛ばした。暖かくなってきて観光の街や高原の村では外にでるときはスカート姿になってきていたけれど、迷宮都市では母さんたちも探索者用の身軽な服装としてズボンを履き続けていた。だから失礼な奴を蹴るぐらいなら余裕だった。

使者は起き上がり、リサ母さんを殴ってこようとしたけれど、リサ母さんがカウンターで殴り返したら吹っ飛んで行った。馬車にぶち当たり派手な音がした。男は開いていた馬車の扉から中に飛び込み反対側の扉をぶち破って道路に転がっていた。馬が興奮し御者がなだめて落ち着かせようとしていたけれど、リサ母さんはそれらを全て無視して、僕の手を取り歩き出した。そしてギルドに行き預けている資金を全部下ろして街を出た。


街を出たあとリサ母さんが高原の村に戻ろうと言うので瞬間移動で飛んだ。


高原の村に着くとリサ母さんは家の裏手に向かった。そして燻製窯の隣に作った燻煙室にチーズの塊を並べて終わり塩漬けした骨付き肉を許そうとしていたマリア母さんとフローラ母さんに事情を説明しだした。

3人で相談した結果しばらく迷宮都市には行かない事と使者の様子を確認する事が決まった。


リサ母さんも燻製造りを手伝い出したので、僕は千里眼で使者の様子を確認する事にした。

使者は扉が壊れたままの馬車に乗り貴族の屋敷がある敷地に入っていったけど、屋敷には向わず、使用人たち用の家に入って行った。そしてその家の主人らしい人の部屋に行って何か説明をしていた。その主人らしい人は魔法を使っていたので貴族では無く貴族に仕える準貴族である可能性は高いかもしれない。貴族の中にも魔法のコントロールがうまく室内で使える人が居るかもしれないけれど少数なので、この家の様子から貴族では無いだろう。取りあえず使者は迷宮都市を統治している人から直接命令されて召し抱えに来た訳では無さそうだと思った。


燻製窯に火を入れて煙突から煙が上がり始めた頃に村の子供達が遊びに来たので迷宮都市の観察を中断して遊んだ。

一番年長者の11歳の男の子が、放牧地の牧草地に雪の下から芽を出した山菜がいっぱいだと言ったので、その日の遊び場は牧草地周囲となった。

牧草地に行くと何人もの大人が山菜と思われるものを籠に収穫していた。

収穫している大人に聞いたところ、炒め物にしても良いしスープに入れても美味しい山菜との事だった。

フローラ母さんに食べて貰いたいと言ったら後でおすそ分けに行くと笑ってくれた。牧草地は広すぎて村人総出でも取り切れないそうで、収穫をしている大人の近くでなければ子供たちは自由に遊んで良いらしい。

幾つかの山菜を踏みつぶしてしまうけれど、それでどうなる量では無いとの事だった。

子供たちは牧草地で魔力循環をしながらの変則的な鬼ごっこを始めた、年齢が高いからといって魔力が多い訳では無いので年長者が常に強い訳ではない。とはいえみんな平民なので常に魔力を使い続けられる訳ではなく、魔力が他の人より多少高くても魔力を使って追いかけてくる鬼から逃げ続ける事が出来る訳ではない。

この変則的な鬼ごっこは2人×3組のグループを組んで1人が捕まるとそのグループに鬼が移るという仕組みになっている。年長者が魔力や体力のバランスを見て組み分けするので実力に偏りが少なくなっている。ポイント制になっていて全部のポイントを失う組が出るか、20ポイント溜まった組が出た時のポイント数で順位が決まる。ポイントの多い組が集中的に狙われたり、ポイントが少ない組が集中的に狙い順位をキープして終わらせたりと、少しだけ戦略性がある鬼ごっこなのだ。

鬼ごっこが終わった後に村長の家に行くと、奥さんが焼き菓子をくれる。そして1番の組になった人は2枚貰えるためみんな結構真剣に追いかけっこをする。

焼き菓子をくれるのは村長が、将来の村の働き手育成を兼ねて、この身体強化鬼ごっこを奨励しているからだろう。

この世界では前世の僕が居た国のように子どもたちを全員集めて学ばせる様な教育機関は聞いたことがない。

子供に対し、家庭教師を招いたり、私塾に通わせたりして教育する人もいるけれど、貴族や


僕は魔力が低いと思われていたし、年齢も低い事もあって最初の頃は一番下の扱いだった。しかし普段から鍛えていたおかげか、年齢の割に足が早くスタミナがあったため、今では下から3番目ぐらいに見られるようになっている。

超能力を使えば1回も捕まらないなんて事も出来るけど、そんな事はつまらないので、何も使わず体力だけで逃げる様にしている。

その日は10歳の女の子と同じ組になった。

5回ほど捕まったところでポイントを失った組が出て鬼ごっこは終了となった。

ブドウ酒作りの時に一緒に遊んだ7歳の女の子は僕を目の敵にしているのか、その組が鬼になると僕を集中して追いかけて来る。そのため僕は実力の割に捕まる事が多くなってしまっていた。

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