第24話 実家の様子

冬の一番厳しい時期に差し掛かってきた事もあって家の周りだけで過ごすだけの日も増えて来た。とはいっても家の周りで運動と超能力の鍛錬と瞑想は行って居るのでダラダラと過ごしている訳では無い。

高原の村は緯度が高いので夜が長くて昼間の時間が短い。

保冷庫のある極北に行けば見る事が出来る前世の知識でオーロラと呼ばれるものがみえるほど北では無いけれど昼間が短いのはつまらない。村の子供達と雪遊びしていてもすぐに夜になってしまうのだ。

母さん達はよく獲物の肉で干し肉や燻製を作っている。

他にもサウナで我慢大会ような事もしている。ハーブで香り付けした湯気で体を温め限界になったら裸のまま雪に倒れ込んで冷やしている。

僕はすぐにのぼせてしまい楽しいと思えないのだけど母さん達は楽しいらしい。

冷たいと感じていた湧き水は何故かこの季節だと暖かく感じる。水路は詰まらせなければ凍結しないそうなので汚物処理は大丈夫だけど、詰まったら流れなくなるので注意するようにと村の人から教えられたそうだ。特に寒さが厳しい夜に放流側が凍結し詰まる事があるそうで、ひどい時には汚物が家まで逆流するらしい。

そうなったら嫌なので朝一の僕の仕事は熱変化で水路を温める事になっている。


屋敷の様子は3拠点への移動を完了してからあまり見ていなかった。時差があるため確認するのが面倒という事と、興味を失っていたというのが理由だ。銀行と手形でやり取りを、身体を脅かしていくかぐらいしかない。僕の力が魔力の化け物でもある貴族に通用するか試してみようかな。能力に目覚めたおかげで治癒そたとはいえ、視力と両手を奪った相手に遠慮する理由もない。まずは毛根を焼いて脱毛する練習台にでもなって貰おうかな。


父親に十円ハゲを作るため様子を伺っていたら屋敷に新たに女を2人連れ込んでいる事が分かった。


父親は借金返済を開始していたが、書類関係を確認すると連れ込んだ2人の女達の実家から支払われた事が分かった。

2人はどちらも金持ちの一般人の娘で、産まれた子供はどんなに魔力が高くても金持ちの家の子になるような書類が作られて居た。つまり父親は、獣呼びして蔑んでいた平民相手に種馬をしてお金を作ったようなのだ。支払いは相手にさせているので現金は屋敷に持ち込まれず盗難対策も完璧。

魔力が高い貴族の血を欲しがる一般人とは結構居るので不思議では無いけれど、あのプライドだけは高い父親が、平民の女を屋敷に住まわせるとはどれだけお金に困っていたのだろうか。

金庫を見てもダミー代わりのつもりなのか銅貨で満たされた袋がいくつもあった。

なので狙わないと思う。だって1000枚入っていても価値は金貨10枚前後。普通の泥棒ならこれを持っていくのは、重くて嵩張るし処分も面倒なので、わざわざ貴族の屋敷に侵入し奪うとは誰も思わない。盗もうと侵入した所を捕まえたいといった計画かな。


銅貨の素材となっている青銅は、塩害に強いので欲しいと思っていた。手に入れるのは難しく無いけれど、大量に集めようとすると結構大変なのでいくらあっても困らない。


宝物庫にあった宝飾品などの行方を探している様子はあるけれど、足がつかない遠い土地で処分するつもりでいる。

最近腹違いの弟は立ち上がれるようになった事もあって、言葉の練習をさせられている様子だった。魔力が強いかどうか早く知りたくて仕方ないのだろう。


僕が屋敷を見て居ない間にマリア母さんの家族が来訪していた事が家宰の記録から分かった。

娘の遺品についての問い合わせがあったそうだが、火災の日に全て無くなったと聞いて落胆した様子が記録されて居た。墓の場所を聞きそこにお参りだけして帰ったらしくそれ以外の記述は無かった。


千里眼をマリア母さんの実家らしき屋敷の方に飛ばすと父親のところから既に帰って居るようだった。

年配の女性らしい人がマリア母さんの姿絵を見てため息をついていたので、この人が祖母なんだと思う。

祖父らしい男性は難しそうな書類仕事をしているので落胆ぶりまでは分からなかった。


マリア母さんにその事を伝えたら、今度一緒に実家に行こうと言う話になった。

強硬的にあんな男との結婚を決めて来た祖父の事は嫌いだけど、祖母の事は心配しているらしい。兄弟は多いので寂しくは無いだろうけど、平和に暮らしている事だけは伝えたいとの事だった。


その日の夜に僕は寝ている祖母を連れて高原の村に飛んだ。

祖母は何か違和感を感じたのかすぐに目を覚ました。

マリア母さんが声をかけると祖母は大きく目を開き驚愕の表情をしていた。

大声をあげたら困るからと高原の村に飛んだのだけどこの様子だったら不要だったかもしれないと思った。

祖母はベッドから起き上がりマリア母さんを抱きしめて静かに泣き始めた。リサ母さんもフローラ母さんもつられて泣いて居る様だった。気が付いたら僕の目も濡れていた。


祖母が落ち着きを取り戻したので、マリア母さんがここに至るまでの経緯をざっと伝えた。

ここに飛ばした方法については特別な魔法道具を使ったという事にしておいた。

同席しているフローラ母さんについてはあの屋敷で唯一庇ってくれた使用人で、一緒に逃亡してきた仲間だと伝えた。

祖母は少し腑に落ちない様子だったけどそれは胸に押し込み納得する事にしたようだ。

屋敷から逃亡している事と特別な魔法装置の存在については秘密にしたい事と今の生活を続けたいことを伝えた。そして、祖母が誰かに僕達の事を伝えたら、一生連絡を取らなくなる事を警告した。

祖母は定期的に顔見せる事を条件に了承してくれた。


祖母とマリア母さんは夜中の遅くまで話し込んでいた。

リサ母さんも同席していて相槌を打ったり話を補足していた。

僕は眠くなってしまったのでフローラ母さんと一緒にベッドで眠りについた。


翌朝起きると祖母は隣のベッドで眠っていた。

マリア母さんが祖母を実家に送って欲しいというので祖母の寝室のベッドに念動力を使いそっと寝かせた。

早朝近くまで起きて居たそうなので深い眠りについているようで今度は起きる様子は無かった。


祖母のベッド脇にはマリア母さんが作った菓子と手紙が入った籠を置いた。

だから昨夜の事は夢だと思わないで居られるだろう。

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