第20話 高原の村での生活
山道は最低限しか整備されていなかったせいで、馬車が揺れて1日とはいえ結構大変な思いをする事になった。
念動力で体を少し浮かせば体が揺さぶられない事に気が付いたけれど、その時には村が見える直前だったので、今後の教訓にする事にした。
村に着いて村長に挨拶しようと聞いて回ると、ブドウ酒作りの指揮をしている壮年の男性がそうだと教えてもらった。
村長は若い移住者が来ることに喜んだが忙しいみたいで、奥さんを呼んで村長宅の客間に案内される事になった。
丁度総出の収穫作業と白いブドウの果汁を樽に仕込む作業を行っているようで、人ではいくらでもあった方がいいらしい。
村から見えるいくつもの丘の斜面の多くがブドウ畑で、1ケ月ぐらいは収穫したブドウを絞って樽に詰める作業が続くそうだ。
ブドウは全て白ブドウで赤ブドウはこの村では育たないらしい。
別の街に暮らす元村人も手伝いでやって来ているらしく、50人程の村との事だったが100人近くの人が作業をしていた。
住居を選んで引越しを終えるまでは村長の村で宿泊させてくれるそうだ、荷物は取り合えず酒蔵の一角に置かせて貰えるらしい。
荷馬車の御者に賃金を渡しお礼を言って別れた。
御者は村の産物であるブドウ酒の樽を買って帰るそうで村長の奥さんと交渉していた。
荷物を下ろしたあとはすぐに村長の所に向かいブドウを絞る作業を手伝うと申し出た。
フローラ母さんは手足を綺麗に洗ったあと清潔な服を上から羽織りブドウが大量に入っている大きなタライの上を数人と足踏みしながら歩く作業を行なった。潰されたブドウはタライの一部に開けられた穴を通って下に置かれた樽に流れ落ちる。タライの中のブドウはどんどん潰され絞られていくけれど、荷馬車で運ばれたブドウがどんどん追加されていく。
ブドウの搾りかすは家畜の餌になるらしく木箱に詰められ馬車で運ばれていた。
僕はまだ幼いという事で仕事は免除されたため、村の子供達と遊んで過ごした。
若い夫婦が少ないため、仕事を免除されているのは乳児1名の他は7歳の女の子と4歳の男の子だけらしい。
男の子は村長の孫で次期村長らしく他の村人よりこぎれいな格好をしていた。
一番年長の7歳の女の子がリーダーとなって遊んだ、女の子という事もあって華の冠の作り方と草笛のやりかたを教えて貰った。男の子は用水路に居る蟹や小魚を捕まえに行きたいそうだが、子供たちは固まって遊ぶように言われて居たので女の子に従っていた。そうやら村長の孫はこの女の子の事が好きらしい。
こんな生活が3週間ぐらい続いた。僕とフローラ母さんは村長宅に泊る生活をしている間はマリア母さんとリサ母さんは観光の街の家の整備を続けるらしい。
日中は分かれてしまうけれど、夜の時間になったら瞬間移動で会えるので寂しくは無い。迷宮都市の宿に合流して宿屋の食事を食べるのだ。離れて居る間の出来事がいっぱいあって話す事が尽きなかったので話下手の僕でもいっぱい話す事があってとても嬉しかった。
ブドウ酒づくりは5日に1回交代で休みの日となっていた。なのでその日に引越し先候補の家を見て回った。他の人は休みの日は家の事をやったり、山林での秋の味覚を採取に行くらしい。
村長の奥さんと一緒に浅い場所の採取ポイントを教えてもらったし、深い場所まで行って色々なものを収穫している村人も見ていたし、おすそ分けとしてもらえたりもしたのでこの時期の収穫物を知る事が出来た。
引越し先は決めたのだが村人の多くが手入れするのに協力を申し出てくれた。なのでブドウ酒の仕込みが一段落ついたら引っ越すといいという話になった。
村長の孫も遊べる祖父母だけでなく同世代の僕が居る事を喜んでいるらしく、村長もしばらくは客間に泊まり続けて欲しいみたいだった。
好意で言ってくれるのは分かって居るのでそれを了承し泊まり続けていた。
村について3週間後にブドウ酒の仕込みが落ち着いてきて、引越しをする事になった。
家は比較的新しかったので掃除程度で済んだためすぐに移住可能となった。湧水を引き込む仕組みの部分にごみが溜まり詰まって居たため、村で一番魔力が強い平民という壮年の女性が取り除いてくれた。
この湧水は夏場は涼しく冬場は暖かい水だし飲用にも可能。魔力の少ない平民には有難いものらしい。夏場でも湧水で容器ごと冷やしておけばミルクが腐りにくいらしい。他にもこの常時流れている水の力で水洗トイレに近いものがある。前世で僕が居た国では当たり前だったけど今世では水洗式トイレは平民の家にある事は珍しい。上水という概念が希薄で自然の水を作物を育てるものやごみを遠くに運んでくれるものとしか思っていないためか、水資源の乏しい地域では水魔法が沢山使えない平民の居住区のトイレは室内に置かれた移動式の容器か庭に掘っただけの穴となる。迷宮都市はダンジョンにごみを持ち運びそれを吸収させるという変わった仕組みがあったため比較的清潔だったけど、人口が密集し庭のようなものが乏しい都市部では移動式容器に出した汚物を道路に投げ捨てるだけという場所もある。そういった所は街に近づいただけで異臭があたりに立ち込めている。
この村なら庭に穴を掘って埋めるスペースにも事欠かなそうとは思っていたけれど、家には引き込んだ湧き水を流す溝に跨り用を足す事で家の外に自然と汚物が排出される仕組みが作られていた。その汚物は村のほぼ中心部を流れる小川まで引かれ清流のより浄化される。畜産業が盛んなので肥料にするものに不足していないのが人糞を貯めない理由かもしれない。
独身設定のフローラ母さんに色目を使いたいのか集まった男衆が張り切って居て、女衆がヤレヤレという顔をしていたのが印象的だった。
いつの間にはフローラ母さんの見た目は20代中盤ぐらいに若返って見える。旦那に先立たれくたびれた女から、立ち直って気にしている若い未亡人にランクアップしているのだ。
家の整備が終わった翌日がブドウ酒の仕込みが終わった祭りの日だった事もあって、僕達の歓迎会も同時に行われる事になった。
街の方に居ると言う村長の娘もやってきていて祭りの前の挨拶を行っていた。
祭りは農産物や畜産物と秋の山の他、村から3年前に仕込んだというブドウ酒が無料で振舞われ、大いに盛り上がった。
既に3週間も一緒に過ごしていたおかげで結構打ち解けており、色んな人から声がかかった。
フローラ母さんも女衆達に囲まれて楽しそうに話をしていた。
翌日手伝いに来ていた村外の住民は村の産物を大量に積み込んだ馬車と一緒に帰っていった。
手伝いに来ていたのは元住民らしく、毎年実家や友人達の家に泊まって手伝いをして過ごすらしい。
給料はワイン樽の現物になるのだが街まで運べば結構な金額で売れるものらしい。他にも販売用の樽や村の産物を現金で買い馬車に詰め込んで帰るので、トータルでは結構良い稼ぎになるそうだ。
村としても手伝いに来る人たちが馬車でやってくる際に街で仕入れたものを大量に積み込んで居るので助かっている。それに馬車を引いてやってくる馬がブドウ酒づくりの時の物資の運搬に使われるため無駄にならない。帰りに村の産物が売れて現金収入が得られるので、手伝いに来る元村人の存在はとってもありがたいらしい。
領主の娘と村長の孫は他の馬車より豪華な馬車に乗って帰っていった。村長の孫と7歳の女の子が名残惜しそうに話をしているが微笑ましかった。
村は街に比べて刺激が少ないし、酪農や農業に比べて稼げるので、成人後に村を出ていく村人は多いらしい。ある程度お金を稼ぎ仕事を辞めて村に帰って来る人も居るらしい、他にも街で産まれた元住民の子が村に憧れて村にやってくる事も一応はあるそうだ。でなんとか労働力が保たれているけれど、高齢化が進んで居るのが今の村の状態らしい。
祭りが終わり村の人口が半分になってかなり寂しくなってしまった。
これから冬になると村への道が凍結してしまう。傾斜がきつい事もあって馬車での行き来はほぼ無くなり陸の孤島と化してしまうのだ。
その間村は春以降にやって来る商隊を待つために内職に精を出す長い冬を過ごすらしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます