第14話 従叔母さんの事情

フローラ従叔母さんが眠りについたのは丁度昼食時だったけれど夕方前には目を覚ましていた。あんなに疲労していたのに4時間少しで起床するのは短いと思う。フローラ従従妹はショートスリーパーなのかもしれない。

まだ体を休めて欲しかったのだけれど、夕飯の音で目覚めてしまったのかベッドから起き出そうとしていた。

ベッドで倒れて居た時には真っ青だった顔色は、少し赤みが刺していて調子が上がっている感じがした。グーっとお腹もなって居て空腹も感じている様だったので匂いで目を覚ました可能性もありそうだった。


フローラ従叔母さんにはしばらくお腹にやさしいメニューが良いだろうと、野菜と鶏肉を細かく刻んで柔らかくなるまで煮込んでいる具沢山なスープにしていた。交易が盛んな街で見つけた乾燥麺も入れているので、前世でいうスープパスタかもしれない。

薄切りにしたパンも一応あるけど、固形物を食べるのが難しそうならまたパン粥にしても良いと思っている。最近大量に採取したベリーの実で作ったジャムが置いてあるので、僕達はそれをパンに塗って食べるつもりだ。僕はあまり好まないけれど、マリア母さんのようにジャムをハーブティに入れて飲んでも栄養豊富で良いと思う。

フローラ従叔母さんはパンは食べずスープだけを2回お替りした。ジャム入りのハーブティーはフローラ従叔母さんも気に入ったようでマリア母さんと一緒に飲んでいた。


食事が終わり一息ついたころ、フローラ従叔母さんに色々事情を聞く事になった。


まず僕の乳母を辞めた後に元の使用人に戻っていた。けれど僕の事を半分自分の子供の様に感じるようになってしまっていたらしい。それはいけない事だと思ったので僕を見かけても話しかけない様にしていたそうだ。

それを心に押しとどめながら生活を続けていたのだけれど、子供を死産したあと生理が来なくなってしまった事もあって、旦那から子供が作れない欠陥品と罵倒される様になっていたらしい。父親の従妹という立場があったので暴力までは受けなかったと言っていたけれど、精神的にはかなり追い込まれてしまった事は想像に難くない。


軟禁されるキッカケだったけれど、事前に調べていた使用人達の噂話と違っていた。

僕達が小屋で生活させられている事については、最初は可哀そうに思っていたけれど、屋敷に居る時よりイキイキと生活している様子だったので、むしろ安心していたそうだ。フローラ従従妹には、使用人達のイジメを止めきれなかった事に対する罪悪感もあり声をかける事は出来なかったらしい。

その様子を家の窓から度々見ていたらしいのだけれど、ある日の夜に小屋が黒づくめの人に襲撃されていたのを見てしまったらしい。助けに向かったけれど駆けつけた時には小屋の周囲は静かだったし、翌日、僕達が普通にしていたので安心したそうだけれど、暗殺者が送られているなら何とかしたいと思ったそうだ。父親はその事について探りを入れる程度で質問をしたのだが、暗殺者の事は知らないみたいの反応をしたらしい。

けれどその日からフローラ従叔母さんが、僕達を逃がそうとしていると画策しているという噂が屋敷中でされるようになり、ついには父親の耳に入り首輪を付けられ軟禁される事になったらしい。

同僚に聞いたところ、そういう噂の出所は父親がマリア母さんと追い出した後に屋敷で妻の様に扱っていた女の周囲からだったらしい。その女はフローラ従叔母さんが父親に探りを入れるために、父親の執務室に入室した時に入れ替わるように退出したので、もかしたら扉の前で聞き耳でもたてられていたかも知れないそうだ。


軟禁生活が始まった途端、旦那は殆ど家に帰って来なくなったらしい。自身のお金が入った金庫は確保していたけれど、妻が家から出られない事にかこつけ、生活物資と交換でかなりの金銭を要求するようになっていたたしく、かなりお金を減らす事になったそうだ。旦那は外面が良かったのでフローラ従叔母さんがこういう状態になっていた事は殆ど周囲に知られて居なかったようだ。

軟禁されてしまってから旦那が普段どこに居ることとか、お金を無心されていることとかを、知り合いに相談する事も出来なくなっていたため、かなりの苦しさを味わう事になったらしい。

唯一の慰めが窓から小屋で生活する僕達を見る事だったのだが、それも俺達の脱出の日に火災で失ったと思っていたそうだ。


脱出の日に、小屋に真っ先に駆け付けて来た人影は、フローラ従叔母さんだったらしい。

懸命に水魔法で消火作業をしつつ、小屋に向かって呼びかけたけれど、小屋が焼け落ちるのを見て助からないと絶望したらしい。そして焼け跡を捜索していた時に人骨を見つけてしまった事で絶望し、僕の事を本当の子供のように思ってしまっていた事を自覚してしまったらしい。


フローラ従叔母さんは焼け跡で号泣している所を他の使用人に見つかったらしいけれど、その辺は良く覚えて居ないらしい。

ただ屋敷の軟禁中に外に出た事は不問にされ、軟禁も解除するので元の仕事に戻れと言われたそうだ。


仕事に行くようになったけれど、食事が殆ど取れず、どんどん痩せてしまったそうだ。周囲から心配してくれる声はあったけど、屋敷がそれどころでは無い状態になっていたのでそこまでのケアはされなかったらしい。使用人たちの家で起きていた現金盗難事件もあったので他人に構う余裕が無さそうだったらしい。

そしてついには仕事中に倒れたのだが、その時は生きる気力も無かったそうだ。無気力になった所で、旦那にも罵倒された事で折れてしまい金庫の開け方も教えてしまってお金を全て持ち去られたそうだ。旦那が入り浸っている女の家の現金はかなり前に現金が盗難されていてそれに当てたかったのだろうと悲しそうに言っていた。


食事を取り眠れた事で落ち着いたけれど、3時間ぐらいで覚醒していて、最初は僕達が生きていた事が信じられず、これが夢で、夢が覚めたらそれは嘘で、声は聞こえていたけれど目を開けるのは怖くて、夕飯の匂いがしてくるまで目が開けられなかったらしい。

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