第5話 超能力に目覚めた

小屋で暮らし始めて1年近く過ぎた。

嫌がらせのつもりなのか屋敷から運ばれてくる食事に、皿の上に乗った生のままの芋とか豆とかがあったらしい。マリア母さんは畑に植えて増やせるから助かると笑っていた。

しかしその事が面白くなかったのか、食事が運ばれる事自体が無くなってしまっていた。


俺はずっと体の中を流れる力を目覚めさせようとしていた。

目も見えないし手足も動かせない自分にはそれをするだけの時間がいっぱいあった。

そして先日遂に何かの力に目覚めた。その時から体も回復していった。

僕が回復した後にマリア母さんとリサは俺が魔法の力に目覚めたのだと勘違いしていた。

しかし、先月マリア母さんとリサが4歳の誕生日を祝ってくれたその日に、僕が使っている力は魔法ではない事を二人に伝えた。


元々魔法というのは心臓近くにあるとされる魔臓器が周囲に満ちている魔力吸収し、それを血液によって体内に循環させる事で使うものというのは、小屋に来る前に付けられていた家庭教師に教えられていた。

循環させると身体能力も上がるそうのだが、コントロールするためには訓練が必要になるらしく、膨大な魔力をコントトール出来ない人は循環中は体を動かさないようにしないと怪我して危険らしい。

マリア母さんやリサに聞いたところ、魔力を体に循環させると胸のあたりが暖かくなり心拍数が上がっていくらしい。

僕は魔法の事を教わった日から胸のあたりに力を感じるものが無いかずっと色々模索していた、けれど決して何かがあるような気配は無かった。

目をつむり心を落ち着かせ何かないかと模索する毎日を繰り返していたのだが、ある時下腹部のあたりを意識すると何かがあるような気がするようになった。

感じる力を意識して魔法は発動しようとしても何も起きなかったけど、何か力を持ったものであることは直感で分かったのだ。


ある日下腹部にある力を意識しながら熱くなってくれと強く願ったら体から何かが抜けていく感覚がした。

突然の事だった事と色んな事に集中力し過ぎていて見間違いだったかと思ったけれど猛烈な眩暈に襲われたので何らかの力の行使に成功したのではと思った。

眩暈はすぐに収まったけれど心拍数が急上昇していて疲労感を感じた。その後体がどんどん熱くなっていったので、すぐに魔法の練習を中断して畑で作業しているマリア母さんを呼んだ。

僕の声を聞きつけたマリア母さんはすぐに来てくれたけど、最初は僕が何か怖い夢でも見たのかと勘違いしていた。

しかし体が熱くて怠い事を伝えたら風邪かなにかを引いたのかと思ったようで、水で冷やしたタオルを頭に当ててくれて様子を見てくれた。

しかし1時間も過ぎると疲労感は消え発熱や発汗も心拍数の上昇も収まってしまった。猛烈な空腹感を感じていたのでそれを伝えたら果物切って持ってきてくれた。

口に入れられた果物を咀嚼し飲み込んだところ、下腹部に何かから栓が外れたような感覚がして、それから体中を暖かい力が体が駆け巡るのを感じるようになった。


その翌日から僕は少しづつ手を動かせるようになっていた、そして足も動かせるようになり目も見えるようになっていった。

食事を取る度に体中を暖かい力が駆け巡って行くのを感じ、そのたびに体が軽くなっていくのを感じた。

これは魔力での身体強化によるものではと思い常に意識して体を駆け巡らせるように過ごすようになった。


1月も経つと完全に見える様になり普通に歩けるようになった。

むしろ前より良く見えるようになって力強く歩けるようになっているように感じていた。


外を歩けるようになって数日後には僕はマリア母さんに頼んで力の訓練をするようになった。色々試した結果、目で見て強く念じるだけで物を燃やす事が出来る様になっている事に気が付いた。

ベッドの周囲を確認すると、丁度目線があった位置の壁が少しだけ変色している事が分かった。あの時体から抜けたものが、その壁を焦がしたのだと思う。

強い力が発動しなくて本当に良かった。

もし火魔法レベルの事が起きて居たら目も見得ず手足が動かせない僕は火に巻かれたかもしれない。

あの時、どうしても魔法に目覚めたくて自暴自棄だったとはいえ、軽率過ぎる行動だったと、今では反省している。


色々試した結果、力を何度も使うと疲労が襲って来る事が分かった。しかし1回で立ち眩みするような事は無く複数回使える力だった。何回か連続で使うと疲労と心拍数の上昇から体中に痛みを感じるけど食事を取るとすぐに収まってた。

何日か繰り返していくうちに、段々と疲労感に襲われるまでにかかる回数が増えて行く事に気が付き、この力は成長していくものだと分かった。ただし使用回数が多いほど空腹感が強く食事量が増えていってしまった。


マリア母さんやリサも普段の生活で魔法を使っていたけれど魔法を特に多く使った日に食事量を増やす事は無かった。

魔法を使った後に疲れないか聞いたが使い過ぎると心拍数が下がって体が冷えて頭痛がしたあと眠くなると言っていた。しばらく休めば元に戻るらしいけれど食事を取ると回復が早まるといった事は無いらしい。


前世の記憶から何かヒントが無いかと考えた時に俺の持つ力は超能力のパイロキネシスという発火能力では無いかと思い至った。

前世では超能力も魔法と同じで空想上のものだったけど、魔法とは違うものとして描写される事が多かった。実際にマリア母さんとリサが使っている力と性質が違うと感じていたのだ。

前世の俺が住んで居た場所ではいくつもの神様が崇められていて、実際には誰も見た事はないけれど様々な力があると考えられていた。気功とか仙術とか忍術とか様々な力の事が本に描かれているのだ。またそういった力を使った陰陽師とか仙人とかエクソシストや忍者といった職業の人を主人公にした物語がいくつもあって前世の僕も読んでいた。


そういった前世の僕が呼んだ物語の中には、チャクラとかいう力が溜まる場所があってそこを鍛える事で様々な能力に目覚めると書かれた物語があった。頭頂部から股間までの中心線に7か所の力が溜まるポイントがあるというものだ。

前世の物語の中では心身を鍛えると共に瞑想を行う事でチャクラが鍛えられるらしい。また逆境を乗り越えるたびに能力を開花させる覚醒がと呼ばれる描写もあった。

僕はその知識を参考にして運動を行い、運動後は超能力の訓練をしたあと、瞑想を行うようになった。

逆境というのは良く分からないけれど、僕は既に毒で死にかけた経験をしている。そしてその後の目も見得ず手足が動かせない生活は苦しいものだった。この力はその時に追い込まれた事で目覚めてくれたのかもしれないと思った。だから瞑想する時は、あの毒を飲まされ気絶するまでの苦しさやその後の体の痛さや目も見えずどうしようもなかった時の記憶を思い起こすようにて精神的に追い詰める時間も作った。静かに体との対話をする静の瞑想と、激しく逆境を思い起こし精神を追い込む動の瞑想。それを繰り返していた。


俺がマリア母さんとリサに力が使えると言った後に、手に持っていた木の枝を発火の力を使って燃やした。

2人は魔法に目覚めたのかと聞いてきたけど違うと答えた。

腑に落ちないようだったけれど、力に目覚めた事については涙を流して喜んでくれた。

そして3人で相談した結果俺が何かの力に目覚めた事は父親には秘密にしようという事になった。

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