第31話 竜馬の変貌。岡田以蔵の出現

 坂本竜馬は変身した。


『変身』――――それ以外に表現はできない代わりようだった。


 最初、それは声の変化――――それから、僅かな表情の変化から始まった。 しかし、今は顔そのものが別人になっている。


 気のせいか、体の大きさが変わって見える。 恵まれていた坂本龍馬の体躯は、細く小さく――――それでいて、剣気を言うものは衰えるどころか、洗礼さを獲得している。


 坂本竜馬は消え去り、急に岡田以蔵が出現した。


「変わったのは姿形だけではない。 剣の技も変わっているでござるな!」


「おかしなことを……ワシと竜馬は別人ぜよ」


 突如として、別人になったこともさながら、繰り出される技の変化に景虎は驚かされた。 


 その剣の感想、人斬り岡田以蔵の剣技とは――――


(なんて読みやすい、素直な剣。だけど、その全てが高水準!)


 創作の岡田以蔵では、貧困ゆえに学のない男。それゆえの殺人鬼とされる。


 しかし、事実は逆。幼少期から、剣術や大砲術を身に付け、中国思想を学んでいる。

 

 そのため高い教養を有していた。 それは剣の流派にも出ている。


 岡田以蔵の剣は――――鏡新明智流。 ただ、剣の強さだけではなく、剣士としての品格を求める王道なる剣。だから――――


「防戦一方でござるな」と景虎は笑った。


(され……岡田以蔵とやらの剣に反撃を試みるも、隙がない。どうしたものか?)


 ここで彼が選択したのは基本に戻ること――――有村の技。その基本とは?


 魔物に勝つために生み出された剛剣。 さらに触れると同時に投げる柔の技。


 つまり――――走り。飛び。斬る。


 景虎は、走りながらも上段からの一撃を放つ。


 日本刀は大型でありリーチが長い。 弾く、受けるは容易ではない。


 以蔵は避ける。ただし、前に飛んで避け、刺突を狙う。


「だが、そうはいかないで――――ござるよ!」


 避けたはずだった景虎の剣が、逆袈裟蹴りの軌道になり跳ね上がっていく。


「ぬっ!」と以蔵はガードした。 しかし、その威力は彼の体を浮き上がらせるほどだった。


「なんちゅ馬鹿力じゃ! しゃらくさい真似を」


 それが隙となった。 すでに接近していた景虎は以蔵の体に触れる。


 景虎の柔術が炸裂した。


 宙を一回転した岡田以蔵の体が地面に叩きつけられ――――いや、景虎は技を解いた。


 自身に向かって、何か飛来物があったからだ。


「暗器……手裏剣? いや、それよりもデカい」


 岡田以蔵が振るったのは隠し武器。それは――――モーニングスターだった。


「ワシに契木術モーニングスターを使わせるとは、流石じゃな。褒めてやる」


 モーニングスター。 通常、モーニングスターとはメイスなど打撃用の武器とされる。


 しかし、景虎に向かって使用されたモーニングスターは、ファンタジーなどで使われる鉄棒に鎖で棘付き鉄球が繋がれた武器のそれ――――


 日本では契木術という。


 また鏡新明智流では刀と並ぶメインウェポンの1つでもあり、当然ながら、岡田以蔵もモーニングスターの使い手である。


 彼は新たな武器を振りかざし、挑発的に笑いかけた。余裕だろうか?


 以蔵は瞬く間に距離を詰め、急襲を開始した。


 比べるまでもなく、景虎の方がリーチが長い。 迅雷のように振るわれるモーニングスター。


 それをやり過ごし、距離を取ろうとするも、以蔵は同じ距離で追いかけて来る。


 間合いは変わらない。 次に刀で受けたモーニングスター。 


 棘のついた鉄球の一撃は遠心力も加わり凄まじい。


「い、一撃で刀が折られるかと思ったでござるよ。なんと予測の難しさ」


「そうか、それじゃ……これで終わりぜよ!」


 モーニングスターを振り下ろしてくる岡田以蔵。 それを受ける有村景虎だった。


 しかし、彼は見た。岡田以蔵の手に握られているのはモーニングスターだけではないことを――――


「おう、元より鏡新明智流は二刀流の流派。剣術と契木術の両方使えて当然よ」


「もっとも、道場じゃ邪道と怒られていたがな」と苦笑しながらも景虎を襲い続けた。


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