第32話 PvP坂本竜馬戦 終了

 織田信長はダンジョンからの恩賞により500年生きている。


 柴田勝家は、人間性を奪われて兵器として500年保管されていた。


 幕末に生きた新選組は、150年以上生き続けている理由は不明。


 では坂本龍馬は? 織田信長幕僚である彼が長寿を許されているのはわかる。


 しかし、彼が岡田以蔵に変身したのは?  


 魂の融合――――死者として岡田以蔵。それを坂本竜馬に体内に封じている。


 その結果、寿命を倍以上に伸ばすことに成功した。 つまり――――実験だ。


 有能な人間を長く生かし、その実験観測を将軍である織田信長に還元されている。


「皮肉でござるな。彼女――――飛鳥シノを名乗った彼女。ほんの僅かに世界がズレていたら――――」


 魔に飲まれて、消えた彼女。 愛する家族の死者蘇生に人生を賭けた者。


 僅かな1日の付き合いであったが……悲しみ。 黙とうを贈り、閉じた瞳を開くと、戦闘に精神を切り替えた。


 さて――――問題は目前の岡田以蔵だ。


「二刀流……左腕に刀。右手にモーニングスター……流石に対峙するのは初めてでござる」 


 景虎は上段からの一撃。 岡田以蔵は左手の刀を防御にまわす。


 強烈な一撃。しかし、以蔵は技を使う。 技を使えば、剣の軌道を逸らすのは容易い。  


 景虎の剣は滑るように逸らされた。 この瞬間、無防備になる。


 右手に握られたモーニングスターが腹部に向かって振る。


「――――っ!」と躱す。 


(リーチが長い日本刀だから避けられた。しかし、今の攻防で間合いを調整された。次は修正してくるだろう。そうなれば――――)


しかし、景虎の心を乱す声が聞こえた。


「拙者を、拙者を使いなされ、景虎どの!」


「その声は『日向守惟任』――――明智光秀か!」


 脳裏に浮かぶのは、あの戦いだった。 柴田勝家との戦い。


 始めて使用した魔剣の威力。それは想像を絶する威力だった。


 ダンジョンそのものを穿つ破壊力。 それは、王殺しの魔剣の名前に負けないものだった。


「もう二度と決闘で使う事はないでござるよ」


「そのような、ご無体な――――」という言葉を遮って、『日向守惟任』を入れているふところに手を伸ばして、奥に押し込んだ。


「ずいぶんと余裕じゃな。そいつがウワサの王殺し魔剣か?」


「あぁ、心配無用でござる。この決闘で使うことはない」


「そうかい、それは残念じゃな。それじゃ、もっと真剣に遊べや!」


 岡田以蔵は間合いを潰す。 接近戦が有利なのは言うまでもない。


 だが、それを阻止するように刀が振るわれた。 景虎の一撃……しかし、それは逸らされ、岡田以蔵に当たる事はなかった。


 景虎は無防備。がら空きになった腹部を晒す。


「その腹、貰ったぜよ!」と彼はモーニングスターを振る。


 棘のついた鉄球が、景虎の腹部に吸い込まれるように叩き込まれた。


「その命――――取ったぜよ!」


 景虎の腹部に直撃する。 肉を潰して、骨を砕く一撃だ。


 受けて生きてる者はいないだろう。 しかし――――


(なんじゃ、この手ごたえは――――まさか!)


「まさか! お主、さっきの動きで!」


「あぁ、ふところの『日向守惟任』を腹部に押し込んでいた……でござるよ」


 先ほどのやり取り、自然と『日向守惟任』の位置を狙ってくるだろう場所に移動させたのだ。


 そうやって防具として、岡田以蔵のモーニングスターを受けた。


 景虎は両手を刀から離すと、岡田以蔵の襟を掴む。 今度こそ、彼の柔術が炸裂した。

 

 景虎の投げ。ダンジョンを揺らすほどの衝撃。


 岡田以蔵の体はそれ以上、動かなかった。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


「僕は……いや、僕と以蔵さんも負けたみたいだね」


 坂本竜馬は坂本龍馬に戻っていた。


「良い戦いでござったよ」


「そうかい。そう言ってもらえると嬉しいな。さて、僕は――――」


 言いかけた竜馬が止まる。 代わりに出現したのは岡田以蔵だった。


「どアホ、竜馬。お前、国に帰ったら処刑されるだろう」


「以蔵さん……勝手に決闘して負けちゃったからね。仕方がない」


 坂本竜馬と岡田以蔵が交互に出現する。 その光景は異常だった。


「仕方がないがあるか! お前が死んだら、ワシも死ぬんじゃぞ!」


「あー それはごめん」


「竜馬、脱藩は初めてじゃないだろ。ここで生きてみろ」


「ここで?」 


「応よ。竜じゃ、馬じゃと言われたお前が囚われてどうする。坂本竜馬は、どこまでも自由じゃから坂本竜馬なんじゃ」


「……」と竜馬は黙りこくった。 それから答えを口にしようとした瞬間だった。


 奥から男の声が轟いた。


「脱藩はよくない。連れ戻しにきた」


 よく通る声だった。 一体、何者か?


 一同が視線を向ける先――――立っていたのは織田信長本人だった。


    

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