第29話 PvP 坂本竜馬

 史実の坂本竜馬は、まぎれもなく剣客である。


 巨体とも言える体躯には、規格外の膂力が備わり、幼少期には柔術を学んでいる。


 北辰一刀流を学ぶ事を許され、土佐から江戸に修行に出て、ついには免許皆伝。


 剣だけではなく、兵法と薙刀でも北辰一刀流から奥義の修了をされている。


 そんな武の達人――――坂本竜馬が剣を抜いた。


 覇気や闘気をいう物が目に見えれば、渦のように発せられている事がわかるだろう。


 それほどの腕前の相手を前に有村景虎は――――


「待った!」と止めた。


「あなたほどのサムライが、逃げるとは思いませんが理由を?」


「この世界で決闘とはPvP……ぷれいやーばーさすぷれいやー? と決まっているでござるよ。郷に入れば郷に従え……ならば、決闘には準備が必要」


「一理ありますね。もう少し詳しく説明を」


「決闘は、ダンジョンの中でのみ。公平に配信をして、世界中の人々に見てもらう。それが、この世界絶対の規律でござる」


「……」と迷いを見せた坂本竜馬だったが、刀を鞘に戻した。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・


『サムライPvP  第二段! 日本一の有名人? 坂本竜馬戦』


 配信予定が更新される。 


 SNSでは宣伝ツイートが投稿される。


 前戦である、沖田総司戦でもアーカイブ動画は再生され続けている。


 日本の剣術家、あるいは歴史研究家が、


「これは本物の沖田総司であるか?」


 まさに談論風発!


「そもそも、なぜ本物の沖田総司が若い姿で日本に出現して決闘をしているのか? どんな方法でそんな事ができるのか?」


「然り! まさに荒唐無稽! されどその技、本物と言わざる得ない」


「ならば、やはりダンジョンには未知のエネルギーが存在して、政府は隠しているのではないか?」  


「黙れ! 陰謀論なんぞ、お呼びではないわ!」


 議論が煮だつ中、更新された配信予定のPvP なんと相手は坂本竜馬というではないか。


 ある者は絶句し、ある者は混乱から罵詈雑言を口にした。


 前回のPvP 沖田総司戦は告知から配信まで1週間の猶予があった。


 しかし、今回は――――1日後。


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・・・


「本当に良かったのござるか?」


「何がです」とダンジョンの壁に体を預けて坂本龍馬は休息を取っていた。


「決闘まで1日待ってくれたことでござるよ。こんな場所で1日過ごした翌日に決闘……体調も満足に仕上げられないでござろう?」


「それで、あなたもここで一緒になって夜を明かそうとしてるのかい?」 

 

 景虎は、毛布と食事を用意して竜馬に渡していた。


「夜が明ければ、殺し合いが始まる。勝つも負けるも悔いを残すのは、互いに嫌でござろう」


「殺し合いの前に、わざわざ奇妙な友情を生み出す必要はないのでは?」


「さて……今生の別れだから知りたいのではござらぬか?」


「なるほど」と竜馬は、食事に手を出した。


「これ、うまいなぁ」


「それは良かった。わざわざ猟に行った甲斐があったでござる」


「――――これをあなたが!?」


「そうでござるよ? 拙者の趣味として猟や釣りから料理まで……」


「楽しそうですね。サムライとして武と生きる。それがこの世界では配信として生かせる」


「ここなら、新しいサムライの生き方もできるでござるよ」


「なるほど、僕も……いや、言うべきではないね」


 それだけ言うと竜馬は毛布に包まれるようにして睡眠を始めた。


 それを見て、景虎も寝る。


 互いに、襲われる……そのような不安がないように見える。


 そして、翌日――――


『サムライPvP  第二段! 日本一の有名人? 坂本竜馬戦』


 配信がスタートした。


「そちらの立会人は?」と蒼月ノア。 今回も彼女が、有村景虎の立会人を務める。


「僕のボディガードが1人。心配しないでも隠れて見てるよ」


 竜馬は自分の背後を指した。 人の気配はないが……


「隠れるのがうますぎてね」と肩をすくめる。


「いないのでは……」とノアは抗議をしようとするも、景虎が止めた。


「大丈夫でござる。竜馬どのは正々堂々と決闘をしてくるでござるよ」


「そう真っ直ぐに見つめられると困るなぁ。本当に悪い事はできないよ」


 とても、殺し合いを始めるとも思えない朗らかな雰囲気。


 しかしそれは――――


「いざ、尋常に――――勝負!」


 開始の合図と共に変わった。


 竜馬は剣を構える。 上段に刀を持つ腕を伸ばした。


 長身の竜馬が、その構えを取ると景虎はある流派を連想した。


(まるで薬丸自顕流――――あるいは宗家である示現流の蜻蛉の構え。想定される威力は――――受けるわけにはいかないか!)


 防御する刀を無視して、叩きつけるような一撃を放つのが蜻蛉の構え。


 それと同じ威力を想定した景虎は回避を選択した。 その直後、景虎がいた場所が爆発したような衝撃に襲われる。


 竜馬の一撃が、地面を砕いたのだ。


「なんて威力でござるか……」


 景虎は、その威力に驚く。そして、驚くあまりに忘れていた。


 坂本竜馬は、示現流でも、薬丸自顕流でもないことを――――


 彼の流派は北辰一刀流。 その特徴は、攻撃的な剣技にあった。


 

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