第28話 『死人王《リッチ・ロード》』との死闘

死人王リッチ・ロード


 巨大な骸骨。 巨人がスケルトンになったかのような姿。


 黒い影が、地面から繋がり、そのまま黒マントになって『死人王』の体を包んでいる。


 武器は杖――――王笏と言うべきか? それには、禍々しい紫色が湧き出ている。


 頭には、錆びた王冠。 装飾に金色の骸骨が3つ――――それぞれ、しゃれこうべが意識を持っているように笑っている。


 その魔力の流れから、3つの骸骨も攻撃魔法を使用してくるのだろう。


 死人王は背後に玉座を召喚してみせた。朽ち果てたボロボロの椅子に座り込むと、魔力を発動。


 周辺に複数の魔法陣が浮き上がり、中から骸骨の騎士――――スケルトンたちが湧き出てきた。


 その数は10を越え、30人(?)の軍勢となり、さらに増えていく。


「飛鳥シノ殿――――いや、桜庭ユウリどのと言うべきでござるな。安心なされよ……今、その執着を断ち切らせていただく」


 景虎の腕が煌めいたように見えただろう。 誰も彼が刀を抜く速度を見えなかった。


 彼の手に刀が握られているのが見えた時、既に3体のスケルトンが斬り倒されていた。


「景虎さん、スケルトンが相手なら私が支援させていだだきます!」


 背後で光崎サクラが叫んだ。治癒士……回復魔法を得意とする彼女であるが、回復魔法の源は聖なる力。 死者を浄化する力も有している。


 範囲魔法。彼女が杖の先端で軽く地面を叩く。すると、結界のように聖なる力が周囲に広がった。 


「ぎっギギギギ――――」とスケルトンの軍勢は、骨が軋むような音を口から出す。


 どうやら、苦しんでいるようだ。 『死人王』の魔法陣から出てくるスケルトンたちの出現速度も遅くなっている。


 それを不快と思ったらしい『死人王』が玉座から立ち上がり、王笏をサクラに向けると、


「……穿て」


 禍々しい魔力を攻撃に転じさせ、サクラに向けて放った。


「ぬっ!」と攻撃を阻止するために、景虎は下がろうとする。だが、それを止める声がした。


「大丈夫です。後衛の護衛は私に任せてください」


 死人王の魔法攻撃。細剣での刺突で貫き、空中で霧散させたのは蒼月ノアだった。


「景虎さんは、『死人王』への攻撃に集中してください!」


「うむ、任されたでござるよ!」と景虎は再び前衛として飛びだして行く。


「もはや、拙者に後方の憂いはなし。『死人王』とやら覚悟を決めていただくでござるよ!」


・・・


・・・・・・


・・・・・・・・・

    

 地面には複数の刀傷。 召喚の魔法陣ごと、景虎が切り裂いた後だ。


『死人王』が座っていた玉座は破壊されている。 どうやら、玉座が魔力の供給源だったようだ。


 王冠の3つの骸骨。 それぞれが詠唱を行い、強力な魔法を同時に発動する装置の役割があった。


 今は切断されて地面に落ちてる。


 残っているのは黒いマントと王笏……その王笏を持っている反対の腕は切断されていた。


「ぎぎぎっぎぎぎ……」と骨が軋む音。


 スケルトンたちも出していたが、どうやら痛みに耐える声らしい。


 魔力の残量も見えてきたのだろう。 今は、王笏に魔力を込めて剣のように使っている。


 後は、体から離れた魔力が攻撃魔法となって宙に3つ浮いている。


 対する景虎は――――無傷だった。


「そろそろ決着の時、介錯は必要でござろう?」


 汗もかかず、呼吸の乱れもない。 


 魔物の中でも強敵に分類される『死人王』


 治癒士 光崎サクラの支援もあってのことだが……ここまで一方的に戦えるものなのか?   


 『死人王』を守るために周囲に飛んでいる魔力の塊。それが景虎の攻撃を阻害する。


 本体である『死人王』を含めて4対1の戦いに等しい。だが――――


「いくら人数がいても剣の技はなし。それで拙者は止められない!」


 景虎は切り払った。 ついに『死人王』を守護する魔法はなくなった。


 最後に『死人王』は、王笏に斬れ味と有する付加をして、剣のように景虎へ攻撃を開始した。


 最後の攻撃だった。


「――――見事、配下の全てを失った主君の最後として、見事でござった」


 斬――――と音がした。


 剣と剣の勝負。 ならば、王である『死人王』が、サムライである景虎に剣で敵うはずもなし。


 最後は、たった一合の技で決着を向かえた。


『死人王』の体に太刀筋が走る。 崩れていく体を戻せる魔力も既になし。


 胴体に線。上半身と下半身が分かれていく。 


 それで終わり。 『死人王』の体は、消滅した。


「……飛鳥シノ殿の体も残らなかったでござるな」


 知り合って、短い時間。 1日の半分にも満たない関係性であった。


 しかし、ダンジョン探索で生まれた絆は本物だったのだろう。


 どこか、彼の表情には、寂しさが残っていた。


 そんな時だった。 パチパチパチと拍手が鳴り響いている。


「何者でござる?」


 景虎は、蒼月ノアと光崎サクラに視線で尋ねた。


 本物の飛鳥シノと同じように、彼女たちが連れてきた客人のような立場の人間かと思った。 しかし、どうやら違うらしい。


 ノアも、サクラも、首を振って「知らない」と意思表示をした。


 拍手を送る男は、そのまま近づいてくる。


 薄暗いダンジョンでは、わからなかった男の服装。 それはサムライの出で立ち―――― 


 着物。腰に帯びた刀。何より目立つのは、頭のちょんまげ。


 加えて大柄な肉体。 足元はサムライに似つかわしくない西洋のブーツ。


「はじめまして、坂本竜馬です」


 自己紹介を終えた彼は、早速と言わんばかりに剣を抜いた。



  

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