第18話 柴田勝家との戦い②
柴田勝家は話の途中、頭を押さえ始めた。 何か思い出してはならない記憶を――――いや、そもそも記憶が存在していなかった事を思い出したのだ。
「記憶がない……ワシの記憶が抜け落ちている。あれから400年の記憶が……ない。ならば、なぜ?」
「勝家どの……この光秀にはわかりますぞ。400年間、武辺者の必要のない時代。それでも――――兵器は必要不可欠」
「光秀どの! それではワシは、まさか……この体は! ワシの400年間は!」
「察しの通りかと……おそらくダンジョンのアイテムを使われ、兵器に体を作り替えられ、保管されていたのでしょう」
「馬鹿な、そんな信長さま……恐ろしい方じゃ」
そんな会話。ちらりと景虎は沖田と藤堂を見た。
景虎でも新選組は知っている。 彼等も150年前に生まれた組織だ。
もしや、彼等も――――だが「僕らは違いますよ」と沖田総司。
柴田勝家と沖田総司。 両者は立場が違うらしいが、その理由は――――
「景虎どの、我が主人よ」と光秀の声が勝家から景虎に移った。
「……なんでござるか?」
「今こそ、この明智光秀を、『日向守惟任』の力をお使いくだされ」
「なに?」
「御覧の通り、柴田勝家どのは、もはや柴田勝家どのではございません。ならば、ここで介錯さしあげるのが武士の情けというもの」
「――――」と景虎は無言になる。そもそも『日向守惟任』の力とやらを使った事はない。
元より、世界から追われる理由となった王殺し魔剣ではあるが、
今も明智光秀は短めの種子島にしか見えない。
「――――使えと言われても、玉薬は? 弾丸も朔杖もござらぬよ」
「それら一切、不要でございます。ただ、撃鉄を起こし引金を引くだけで――――」
しかし、異変が起きた。 それは目前の柴田勝家の身に起きた事だ。
「おぉ、感じるぞ、光秀! それが信長さまが欲する王殺し魔剣の力か。ならばワシは全てを失っても――――忠義を選ぶ!」
柴田勝家の全身が赤く輝き始める。 大きな魔法使用の前兆。
その足元に魔法陣が浮かび上がる。 先ほどの攻防で景虎が破壊した魔法陣と同じ物。
本来の魔法陣を描けずに、魔力の線に亀裂が走っている。
それは底尽きるまで術者の魔力を吸い上げる暴走。 未完成の魔力は勝家の肉体に吸収されて、彼の肉体に変貌を起こす。
まさに『魔人』柴田勝家――――と言うところか?
巨大な肉体は、さらに大きく。 全身を魔力の鎧で包まれている。
おそらく理性も残っていないだろう。 人間の証拠である二足歩行すら止め、獣の四足獣に成り果てている。
それでも武器である金棒は手放していない。
喉からは「ぐるるるる」と狂犬か狼のように音を鳴らしていた。
「魔力の暴走が――――」と言いかけた景虎であったが、その声を光秀は否定した。
「いいえ違いますよ。これは断じて違う。景虎どの……これが織田信長という男が作り上げた生体兵器。 あの男が作った戦国武将の成れの果て」
「これが、こんなものを作って良しとするのでござるか? 尾張の将軍さまは!」
「はい、左様に――――だから、撃ちなさい。ここで勝家どのを止めて差し上げましょう」
「……」と景虎は無言で決意を固める。 しかし――――
「しかし、簡単に撃てないでござるな」
景虎の目前、勝家が飛び掛かって来た。
「――――ッ!? 速い。動きが先ほどとは別物。この巨体で?」
攻撃を受けた景虎の体が弾かれ、吹き飛ばされる。
しかし、それでは終わらず。 追打ちと言わんばかりに空中にいる景虎に勝家が攻撃を加えて来る。
防御しながらも反撃に斬撃を何度か叩き込む。 だが、それで勝家は止まらない。
まるで手負いの獣の如く―――― 傷を負えば負うほどに――――
攻撃は強く、速く、荒々しくなって行った。 だが、奇妙な事がある。
そんな攻撃を前に、勝家の攻撃は一度も景虎に触れてなかった。
「おぉ、まるで話に聞く北辰一刀流の木の葉落としが如き、高速の連続撃。捌くので精一杯でござる」
どこか声が弾んでいる。 どこか楽しんでいる。 どこか笑顔にすら見える景虎だった。
「捌くの精一杯」と言いながらも――――
「ここでござる!」と躱すと同時に踏み込み、カウンターの一閃を勝家に放った。
だが……
「……やはり、手ごたえはない。魔力の鎧がこちらの斬撃を阻害しているようでござるな」
景虎は距離を取る。 一方の勝家も、これ以上は追わない。
ダメージがないにしても、一撃を与えてきた景虎に警戒してか?
「景虎どの、今ですよ! 今なら当たります」と光秀。
確かに間合いとしては、絶好の好機。 種子島を取り出して撃てば当たる。
だが、光秀の声を「――――」と無視をする景虎。
その理屈は、勝家が無傷でなければの話だ。
巨体でありながら、獣のような身体能力を持つようになった勝家。銃を構えて取り出す動作の間があれば、間合いを潰して攻撃してくるだろう。
「光秀、お前を使う時が来たならば、あの勝家に一太刀を浴びせ、その機動力を殺した後――――暫く、静かにしてくれ」
そう言うと景虎は、せっかく開いた間合いを捨てる。自ら前に出て間合いを潰して――――勝家の前に。
「さて、もう一度言う」と景虎の鋭い眼光が勝家の動きを止める。
「では――――いざ、尋常に――――」
それは景虎と勝家の戦いを始めた時の合図と同じかけ声。
理性を失ったはずの勝家の目に僅かでありながらも、光が……理性の光が灯って見えた。
「勝負!」と声を上げた景虎に合わせて、勝家の喉が鳴った事は偶然ではあるまい。
その直後、勝家の猛攻が再び始まった。 獣の乱撃だ。
だが、今度の景虎は、その猛攻を弾いて捌く真似はしなかった。
回避に集中する。注目すべきは、その動き。
まるで神の捧げる舞いのような優雅さすらあり、いざ反撃とならば炎の如く苛烈であった。
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