持つ者と持たざる者 終

 数日後、黒崎グループは崩壊していた。嫌な予感はしたが、杞憂だったようだ。

 赤川君がうまくやってくれたのかもしれない。


「ねえねえ、黒崎さ~ん。トイレ、行こっか。私たち、友達だもんね♪」


 そして『新しい女王』となった元取り巻きに、トイレに連れていかれる黒崎。


 今度は黒崎瑠美がいじめの標的となっていたのである。


 きっかけは黒崎が親から『虐待』を受けているという噂が出回った事だ。

 それを知った皆は、黒崎に対して同情するのでもなく、憐れむのでもなく、『チャンス』と思ったらしい。

 黒崎瑠美は親から大切にされていない。ならば、その権力に怯える必要も無い。

 つまり、傷つけてもお咎めは無いのでは? と。

 そしてこの学校は教師を中心に見て見ぬふりをする人間ばかりだ。


 だから、試しに誰かが黒崎を攻撃した。

 結果、全く問題にならなかった。

 それで皆のタガが外れた。日頃の恨みでも晴らすように、黒崎に対する強烈ないじめが始まったのだ。

 それはもう、酷い内容だ。


「ねえねえ、こいつって実はブスだよね」


「だよね~。きゃははは! ブ~ス」


 トイレに連れ込んで、そんな声と共に水をかけられる。モップを顔に押し付けるような事までしているらしい。

 でも、僕は同情しない。だって、この結末は黒崎の因果応報なのだから。

 これまで散々愛原さんをいじめたんだ。自分がいじめられるのは当然だ。


 確かに黒崎は勉強ができた。運動もできた。でも、『愛』が無かった。

 愛が存在しない女に、救いなど無いのだ。

 対して僕は空っぽだった。だが、愛という最後の武器はあった。

 それが僕たちの命運を分けた。だから、黒崎。お前の負けだ。


「愛原さん。大丈夫だよ。もう君は誰からもいじめられることは無いんだ」


「それは、本当?」


「本当だよ。もう怖がらなくて、いいんだよ」


「あ、ああ。うわああああああああ!」


 あの日、愛原さんは初めて声を上げて泣いた。今まで溜まっていたものが吐き出されたのだろう。本当によかった。

 全ては終わった。あの黒崎を僕たちがやっつけたのだ。

 ただ、気になる部分も残っている。




『赤川君はこの結末に満足だったのか?』『彼と黒崎の関係は?』

『愛原さんは本当に超スペックだったのか? 僕の気のせい?』




 まだ終わってはいない。そんな気もするが、僕には関係ない事だ。

 もう黒崎の脅威は去った。悪は滅んだのだ。ここからの時間はたっぷりある。

 今や僕は持たない人間ではない。『持つ側』の人間だ。

 『資格』は得た。もう誰にも文句は言わせない。思いを伝えよう。




 そう、『持つ人間』となった僕は誰よりも偉いんだ。そして『邪魔者』も消えた。これで……愛原さんは僕の『モノ』だ。




 ああ、楽しみだ。待ちきれない。

 今日の放課後、すぐにでも愛原さんに告白をする。彼女は確実に受け入れてくれるだろう。

 だがもし、愛原さんが僕の思いを拒絶したなら、その時は……


 ×××


 一年後。

『本日のニュースをお伝えします。○×高校に通う愛原――さんの行方が分からなくなって、今日で一年となりますが、警察は捜査の打ち切りを発表しました』


『愛原さんは行方が分からなくなる直前、特定の男子生徒に執拗に迫られていたとの情報もあり、警察がその男子生徒に事情を聞いたところ、本人は関与を否定。事件との関連は無しと結論付けられました』


『また、同じ日に行方が分からなくなった黒崎瑠美さんについては――』





瀬戸良太編………終わり


次回→赤川大地編

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