第24話 廃墟撮影
男子大学生の星野さんは廃墟の写真を撮るのが趣味で、その日も埼玉と東京の境にある湖近くの廃ラブホテル街に撮影に出掛けた。
撮影したくなるような趣のある場所はどこかないかと、狭い道沿いに立ち並ぶ廃ラブホテルの数々を眺めながら歩く。
かつての栄華を想像すると何とも味わい深い気持ちになった。
平日の昼間、人や車の通りはまばらで静かだったが、突然頭上で「バキッ」と太い木の枝が折れるような音がした。
メルヘンチックな名前の廃ホテルの辺りだった。
思わず頭を抑え身構える。
本能的に身の危険を感じる程の強烈な音だった。
しかし、何も落ちてはこなかったし、周囲を取り囲む木々のどれを見ても異常はない。
地面に枝葉が落ちたような音も聞こえない。
とりあえず身の危険は無かった事にホッと胸を撫で下ろしたが、心臓はずっと激しく鼓動したままだった。
少し不安を覚えつつ、星野さんは再び歩き出した。
「今にして思えばなんというかあの音は警告音だったのかなって思っています」
そう星野さんは振り返る。
しばらく歩くと、ここはなんだか良さそうだと思える廃ラブホテルを星野さんは見つけた。
ホテルの名前が記してある看板は昭和や平成初期の名残を残している感じがして良い雰囲気だった。
バリケードが張り巡らされており中には入れそうもない。
さらには不法投棄のゴミが大きな山を作っている。
しかし外観だけでも異様な空気が強烈に漂っていて、妙に惹かれる物があった。
「よしここにしよう」
星野さんはカメラを構えファインダーを覗いた。
無数の人の生首が、ファインダー越しに見えた。
廃ラブホテルの建物を、まるで蔦が覆い尽くすように、生首たちが埋め尽くしていた。
男の顔も女の顔も老人の顔も子どもの顔もあった。
青白く、無表情の、目に光のない顔だった。
驚いてファインダーから目を離し裸眼で建物を見ると何もない。
だがしかし、それがかえって星野さんの背筋を凍らせた。
見えては行けないものが確かにそこにはあったのだと実感したからだ。
ここにいては行けない。
直感的にそう感じ、走ってそこから逃げたそうだ。
そんな怖い体験したのにも関わらず、星野さんはまだ廃墟の撮影を続けている。
「あの時は怖くて逃げて来ちゃったけど、シャッター押しとけば良かったなって少し後悔してます。もし強烈な心霊写真撮れたら凄くバズったかもしれないじゃないですか!?あぁ俺もバズりたいなぁ!」
星野さんはまたあの廃ラブホテルに行こうかどうか迷っているという。
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