第16話 嘘事故物件
某不動産会社の駅前店舗で、賃貸物件の仲介の仕事をしている中西さんが言うには、ここ最近、事故物件にあえて住みたがる人が増えているらしい。
コロナ渦の影響などで生活に困窮し、とにかく一円でも安い所に住みたい人が増えたからということではない。
単に興味本位な人や、ユーチューバーとして注目されたい人などが、あえて事故物件に住みたがるのだという。
そういったここ最近の事情を利用した、とある営業手法を中西さんは編み出した。
実は事故物件でもなんでもない、しかし借り手がなかなか見つからない不人気物件を、過去に自殺者が出た事故物件だと偽って契約させてしまうのだという。
その手法を使い、ラブホテルと某新興宗教団体の施設に挟まれているアパートの一室を、ユーチューバーとして名を上げたいというニ十代のフリーター男性Tさんに紹介し、契約をもぎ取った。
「大家さんには喜ばれるし、上司には誉められるしで良かったんですけど、困ったことになって。ワープしちゃうんですよ。その嘘の事故物件に」
ある日、中西さんは自宅のマンションに帰宅し、玄関の扉を開け中に入ったが様子が変だった。
どう見ても見慣れた自分の部屋ではない。
だがしかし、確かに見覚えのある部屋だった。
Tさんに紹介した嘘の事故物件のアパートの部屋だと、内見のために何度も出入りしていた中西さんはすぐに分かった。
部屋ではTさんがソファーに座り、テレビを見ながらくつろいでいた。
頭が真っ白になり呆然と立ち尽くす中西さんの方を見て、Tさんは怪訝な表情を一瞬見せたが、中西さんの存在にはどうも気づいてはいない様子だった。
我に帰り慌てて踵を返し、玄関の扉を開け外に出ると、そこは自宅のマンションの廊下だった。
疲れていて幻覚でも見たのかと思った中西さんは、目を閉じ深呼吸したあと、恐る恐るもう一度扉を開けて中に入った。
するといつもの自分の部屋に戻っていた。
それからというもの、帰宅するたびに、中西さんは同じ体験を繰り返しているという。
「Tさん、ワープしてくる自分の存在にたぶん気づき始めてます」
ある日、Tさんの部屋にワープすると、Tさんが中西さんの方を見て絶叫した。
次の日、Tさんから、「ついに黒焦げの幽霊が現れました!良い動画が撮れそうです!」と感謝の電話が中西さんもとに掛かってきたそうだ。
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