第15話 叔母の遺影
五十代のトラックドライバー戸崎さんから伺った話しだ。
戸崎さんの七十八歳になる叔母が大腸がんとの闘病の末に亡くなった。
叔母は歳を取ってもファッションや美容に手を抜かないオシャレで若々しい人だった。
いつ会ってもメイクはバッチリきまっていて、髪も綺麗に茶色に染め、一本の白髪も許さないという人だった。
戸崎さんは会うたびに半分お世辞で、叔母に対して「いつも綺麗だね」と褒めていたが、叔母はまんざらでもないといった様子で、とても嬉しそうに笑っていたそうだ。
そんな叔母の通夜と告別式の祭壇に飾る遺影をどれにするか、親戚一同で話し合う事になった。
亡くなる五年前に温泉旅行に行った際に立ち寄った、観光地のお寺で撮った写真の叔母がとても良い笑顔をしていたので、それにしようという事になった。
その遺影で通夜を行い、一晩経った翌日に告別式のために斎場に入ると、そこにいた家族、親戚一同みんなが驚きの声を上げた。
遺影が別の写真にすり替わっていたのだ。
写真の中の叔母はとても若く見えた。
叔母の夫である叔父がその写真を見て「これ新婚旅行の時に撮ったやつだ!」と大声を上げた。
二人が結婚したのは二十代の頃だ。つまり随分と若い頃の叔母の写真に誰かがすり替えた事になる。
いったい誰がそんな事をしたのだろう。
家族、親戚一同の誰もそんな事はしていないと言うし、斎場のスタッフの誰も身に覚えなどなく、首をかしげるばかりだった。
第三者が斎場に侵入してすり替えたとして、そんな事をするのにいったい何のメリットがあるというのか。
狐につままれたように静まり返った空気の中、叔母の妹である戸崎さんの母親が口を開いた。
「たぶんお姉さんがすり替えたんじゃないかしら。亡くなる前に遺影は若い頃のやつを使ってねって言ってたわ。冗談だと思ってたけど本気だったんだ。遺影だけ若く綺麗にしてもしょうがないのにね。お姉さんらしいわ」
そう言って大声で笑った。
すると家族親戚一同みんな、生前のオシャレや美容に力を入れていた叔母の姿を思いだして、あの人ならやりかねないねと納得し笑い合った。
とても和やかで暖かい空気にその場が包まれた。
結局遺影はそのままにして告別式を行った。
最後のお別れの際、棺桶の中の叔母の顔を戸崎さんは見たが、満足そうに微笑んでいるように見えたそうだ。
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