第9話 ストーリー

 会社の忘年会の二次会で連れていかれたガールズバーで、私を接客してくれたシオリさんという女性から聞いた話しだ。

 

 シオリさんの友人の鈴木さんが事故で亡くなった。

 睡眠薬をアルコールと共に摂取し意識が朦朧とする中、自宅マンションのベランダから落下したという。


「あの子、SNSに病んだ投稿する癖があって。インスタのストーリー、そうそう!二十四時間で消えるやつです!それに〈いきてるのつら ぴえん〉とか書いたり、リストカットした腕の写真を載せたりとかしてて。最初は心配してたんですけど、そのうち、またやってるよって感じになってきて、いいねもしないし、メッセージも送らなくなってたんです。でもそしたら死んじゃって…」

 

 鈴木さんが亡くなってから一週間ほどたった頃、シオリさんが自室のソファーに座りインスタグラムのアプリを開くと、画面上部に並んでいるフォローしている人がストーリーの投稿をした事を知らせる「○」の中に鈴木さんのアイコンがあった。その下に書かれているアカウント名も鈴木さんの物だった。

 シオリさんは不審に思いつつそのアイコンをタップし投稿を見てみた。

 ただ真っ黒な画面に〈死んでもまだつらい ぴえん〉という文字が貼り付けられただけの簡素な投稿だった。

 誰かが鈴木さんのアカウントを乗っ取っていたずらをしているのか。

 シオリさんは憤りを覚え、その投稿のメッセージ欄に〈いたずらやめろよ悪趣味〉と書き込みをして送信した。

 

 その数秒後、窓は全て閉めきっているのにも関わらず、シオリさんの部屋にびゅっと強い風が一瞬吹き抜けた。

 気づくといつの間にか目の前に、鈴木さんが陽炎のようにゆらゆらと佇んでいた。

 精気のない無表情な顔つきの鈴木さんが口を開く。

「いいねしてえええ!」

 シオリさんは慌てて、〈死んでもまだつらい ぴえん〉の投稿画面をもう一度開くと、震える親指で右下のハートマークをタップした。

 ハートマークが赤色に染まった瞬間、それがまるで合図のボタンだっかのように鈴木さんは「ありがとう」そう言った後に、風に吹き飛ばされるように消えたという。


「あの子が生きてる時に、もっと病んだ投稿にいいねしてあげれば良かったなって今は思ってます…。あっ、体験談教えてあげたんだから私にドリンク!一杯いいですよね!?」


 やや出来すぎた感のある綺麗すぎる「ストーリー」だったので作り話の可能性も考えたが、勢いに押されシオリさんの分のドリンクも私は注文した。

 

 

 



 


 

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