第6話 死んでもなおらない その二

 都内に住む三十代の男性、黒川さんがバンド活動に励む二十代のフリーターだったときに体験した話しだ。

 その頃黒川さんは洗濯機を持っていなかった。なので週に二、三度コインランドリーで洗濯をしていた。


 その日も、バイトから夜遅くアパートに帰って、音楽を聴きながらダラダラと過ごした後、深夜二時頃に近所にある二十四時間営業の、銭湯に併設されたコインランドリーに行った。

 先客はおらず、稼働している洗濯機も乾燥機も一台もなく、店内はとても静かだった。

 適当に選んだ洗濯機に洗濯物を入れようと、洗濯槽の中を何気なく覗き込む。

 目が合った。

 まん丸の洗濯槽にちょうどぴったりと収まった丸顔の男の顔が黒川さんを見上げていた。


「ちっ。なんだ男か」

 

 洗濯槽男がそう言うと洗濯機の蓋がひとりでにバタンと大きな音を立てて閉まり、照明がチカチカと数回素早く明滅した。

 黒川さんは青ざめて、洗濯物を抱え急いでアパートに戻った。

 

 それ以来そのコインランドリーは利用していない。

 次の日にリサイクルショップで安い洗濯機を買ったそうだ。


「なんだ男かって、女の人があの洗濯槽男に遭遇したらどうなっちゃうんでしょうかね?」


 そう話す黒川さんは、恐怖を感じている、心配しているというよりも、下世話な興味を隠せないといった表情をしていた。


 

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