第8話
誰もが消化不良を感じたまま六限目が終わり、ロングホームルームも済んで放課後になった。帰宅する者、部活に行く者、それぞれが教室を後にする。
どこかに行っていたリリは六限が終わる寸前に戻ってきて、貴重品袋が見つかったことを伝えると「そう、よかったじゃないか」とそっけなく返して席に着いただけだった。
今まで何をしていたのかと
「……で? 本当はどこに行ってたの?」
私は日直なので日誌を書いて、黒板を綺麗にして、教室を施錠して鍵を職員室に返却するという仕事が残っている。リリはそれに付き合ってくれていて、日誌を書く私の前の席で退屈そうにあくびをしていた。
教室には私とリリしかいない。他人の耳がない今なら、本当のことを話してくれるかもと思っての質問だった。
「言っただろう、トイレだよ」
「随分長かったけど。おなかは大丈夫なの?」
「
「仮病、ね。……貴重品袋が見つかったのって、リリがしたことなんでしょ?」
「そういうことになるね」
ウソがばれても悪びれもせず、あっさり認めてリリは小さく笑った。
「どうして?」
「みんなが困っていたからね」
そんな子じゃないのに、そんなことを言う。
本当、ウソが下手なんだから。
「正義の味方みたいだね。よし、ご
「そんなものより、キスのほうがいいな」
「えぇ? 安上りな子だなぁ……」
「何を言ってるのさ。ミコがしてくれるキスはどんなに美しい宝石や貴金属よりも価値があるよ。
「それはちょっと言い過ぎ」
苦笑しながら席を立って、リリをギュッと抱き締めながらキスをした。
小柄な体を抱き締めると、こう、腕の中にすっぽり収まる感じでものすごく安心する。リリと抱き合うために私の体の大きさがこのサイズに決まったのではないかと錯覚しそうになるくらい、ピタッとはまる感覚が心地いい。
「……リリ。もう一回、いい?」
「たくさんご褒美をくれるんだね。もちろんだよ」
とろけたような笑みで見つめてくるリリの瞳に心臓を
「ん……っ」
リリの口からこぼれた甘い吐息で歯止めがきかなくなって、むさぼるようにリリを求める。可愛い。好き。
「ミコ、もう十分だから。それ以上いけない」
「……私は足りない。全然足りない」
「ステーイ」
「犬か!」
思わずツッコミを入れて、ふう、と息をつく。
先ほどまでスマートフォンとお小遣いを失ったと絶望的になっていた反動か、それを取り戻してくれたリリをますます好きになっているらしい。好きが深まるのは別にいいけれど、行動に出すのは自重せねば……またクラスの子からバカップルとか言われてしまう。
リリから離れて深呼吸を二回、落ち着いたところで
「で、何がどうなってるのか説明してもらえるんでしょうね?」
「そのつもりだよ。観客も到着したことだし」
「観客?」
顔を上げてリリを見ながら首を
「
意外な面々に思わず声が漏れた。
明らかに不機嫌そうな梁川さんはわざとかと思うような大きな靴音を鳴らしながらリリの前に立ち、その小柄で可愛らしい顔(主観)を見下ろした。
「何なの、
「やあ、梁川さん。時間通りだね。小波渡さんも、鹿瀬さんも、入口に立ってないでこっちにおいでよ」
「…………」
「警戒しなくていい。僕は君たちに『空想の物語』を聞いてもらいたいだけなんだ」
ニコニコしながらリリが
小波渡さんは平然としているが、鹿瀬さんは完全に怯え切っている。
何だ? 三人をメモで呼び出したらしいけど、リリは何をしようとしているんだ?
……って、事件の話しかないか。
ということは……犯人はこの三人……?
「さ、座って。あいにくお茶は出せないが、気楽にしてほしい」
「くだらない前振りはいらないのよ。さっさと本題に入って」
「せっかちだなぁ……」
イライラ絶頂の梁川さんに肩をすくめて見せて、リリは小さく息をついた。
言われるままにリリの正面に座った梁川さんと、その横で互いに寄り添うように立つ小波渡さんと鹿瀬さん。リリが
そして。
「じゃあ、本題に入ろう。梁川さん」
「何よ」
「君のスマートフォンに保存されている、ある画像と動画を消去してもらえるかな。もちろん、クラウドに保存してある
「――ッ⁉」
その言葉とともに、普段の気だるそうなリリの様子からは想像もできないほど
画像……? 動画……?
どういうことだ……?
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