第3話
日直の私が鍵を持っているので大急ぎで着替えて教室に戻り、それでも数人を待たせてしまいながら貴重品ボックスに駆け寄った。昼休みなので購買のパンを買うために財布が必要な人がいるし、とにかく急がなくてはいけない。
鍵を差し込んで貴重品ボックスの南京錠を外して、
「え……?」
思わず声が漏れた。
なんだこれ……?
「どうしたの、
ボックスの前で立ち尽くす私を不思議に思ったクラスメイトが寄ってきてボックスを覗くと、同じように「えっ?」と声を上げた。
なんだ、どうした、と人が集まって来る。
そのうちの一人が私の肩をぽんぽんと叩いた。
「なんでもいいけど、早く財布を出して。欲しいパンが売り切れちゃう」
「え……いや……」
「もう、何をして……」
立ち尽くす私を押し退けて、ボックスを見て――
「空っぽ……?」
不思議そうに呟いた。
そう。ボックスが空っぽだったのだ。
瞬間、動揺が広がる。ざわめきが大きくなる。
「貴重品袋は? わたしの財布は? スマホは?」
「…………」
その問いかけに答えられる者はいなかった。
貴重品ボックスから、貴重品をまとめて入れておいた袋が消えた。
それがわかると、すぐに教師が呼ばれて現状確認が行われた。クラスメイトは教室で待機することになり、ピリピリした空気と疑いの目が辺りに漂っている。
それがほぼすべて私に向いているから、居心地が悪くて嫌になる。
……まあ、しかたないことだけど。
もし盗まれたのであれば、鍵を持っている私が一番の容疑者だ。私が盗んだか、私のミスで誰かに盗まれたか。みんなはそう思っているのだろう。
だが、私は何も知らない。何もわからない。
「申し訳ないが、全員の持ち物検査をさせてもらう。協力してほしい」
担任が
協力という名の拒否できない要請に全員が了承すると、男性教師が女子生徒の持ち物を調べるのは問題があるということで女性教師が呼ばれ、一人ずつカバンと机、教室後部の棚を調べられた。
当然――誰の持ち物からも消えた貴重品は出てこなかった。教室内をくまなく探しても見つからなかった。
すでに犯人が持ち去っているのだろう。それは貴重品が戻って来る可能性は極端に低いということであって……父に頼み込んでやっと買ってもらった私のスマートフォンはもう……うぅ、泣けてくる。
「那須野」
「はい」
担任に呼ばれ、泣いている場合ではないと奥歯を噛み締める。泣きたいのは他のみんなも同じだろう。
「今日の日直は君だったな。最後に貴重品袋を見たのは君か?」
「リリ……
「神前、そうなのか?」
「ええ、ミコがボックスに入れて南京錠をかけ、きちんとかかっているかを二度確認しているところを見ましたよ。そこの二人もその場にいたはずだが」
リリに話を振られた二人が「見ていました」とうなずいた。
他に証人がいてよかった。身内や近しい人物の証言は証拠として採用されないと探偵が登場する漫画で知ったが、私の
「そのあと私は教室を施錠して、神前さんと更衣室に向かいました。それから着替えを済ませて、グラウンドに」
「体育の授業が始まる前に、教師に鍵を預けたのか?」
「はい。教室と南京錠の鍵、二つともです」
「そのときに変わったことはなかったか?」
「いえ、特に……」
遅れそうになって慌てていたが、変わったことは何も――
「教室を施錠して少しして、
「あ……」
リリの指摘で失念していたそれを思い出した。
「小波渡?」
「教室に忘れ物をしたらしく、ミコから教室の鍵を受け取って部屋に入ったんだ」
「そんなこともあったねー」
疑いの目が向いたことに気づかないのか、小波渡さんは気の抜けた返事をした。
「でもさー、那須野からボックスの鍵はもらってないし、一分くらいで教室を出たし、盗めるわけないじゃん。あたしは知らないよ」
「一分は言い過ぎだね。せいぜい二十秒だ」
「そんくらいか。ま、どっちにしてもあたしじゃない」
リリの一言で疑いが晴れたと言わんばかりに小波渡さんはそっぽを向いた。
「体育のあいだ、教室とボックスは施錠されていたということだな。それで、昼休みになって那須野が戻り、ボックスを開けると貴重品をまとめて入れた袋がなくなっていた、と」
「ミコが南京錠を外すところは何人かが見ていた。そのときにミコが盗むのは不可能だよ」
担任の言葉にリリが付け加える。私の無実を立証できるように誘導してくれているらしい。ありがたい。あとでキスしてあげよう。
「は、
と、異議を挟んできたのは、クラスの女王様こと
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