+++第二話:プロローグ(2)世間知らずたちは、どうなった⁉


 


 あの襲撃から二日がたった。

 俺たちに突如として襲い掛かった、あの集団がいったいなんだったのか―――。

 ニホンという、シバウラたちの故郷のこと・・・そして突如覚醒した彼らの魔法の才能のことも、まだなに一つとして結論は出ていない。

 

 だからこそというべきか、クミシマはこの場である提案を持ち出したのだった。





 「―――――――えー⁉

 じゃあ七瀬、私たちを置いていくってことお⁉」

 

 ミヤダイが目を覚まし、初めて全員がそろった食事の席。

 少し肌寒い早朝の空に、彼女は驚きの声を上げた。

 


 

 「まあ、端的に言えばそうなるかしら。

 先に行って、状況を説明してくるのよ」

 

 いきなり意見が食い違ったようだが議案は察しの通り、これからの行動についてだ。

 クミシマは自分だけで先に町に向かい、ここに助けを呼んでくると提案したのだった。

 

 

 「そんなあ、なんでなんで?

 みんなで行こ―――――よ・・・ぅ?」

 

 

 

 (・・・・あれ⁇)

 

 

 

 

 

  


 「――!

 おっ、と・・・・」

 

 席を立ったミヤダイはバランスを崩し、俺の方へともたれた。




 「―――ご、ごめん。ハルガダナくん」

 「ああ、気にしないでくれ」




 急いで座りなおした彼女は、恥ずかしそうに髪の毛を触った。

 そこでそれを見たクミシマは、「ほら見なさい」とでも言わんばかりに眉をひそめた。


 


 「・・・ロロカ、あなたはまだ本調子じゃない。

 なぜかとても元気だけど、ハルガダナくんだって一度死にかけたでしょう?

 正直私には理解できない・・・・でも、まだ無理はさせられないわ」


 

 それはその通りだろう・・・魔法について知識がある俺ですら・・・なぜ自分が生きているのか不思議なくらいだ。

 訳の分からない状況のなか、早急に解決しようと思うのはよくわかる。

 だが一方で仲間と別行動になる心配も、理解できるはずだ。

 

 クミシマが、そういったミヤダイの気持ちを理解していないはずがない。

 しかし、彼女はそのうえで自分の考えを淡々と述べたろう。

 

 

 

 「――――たしかに。

 いつまた襲われるかわからないこの状況で、助けを呼びに行くのはいい考えかもしれないな・・・」

 

 双方の意見を聞き、しばらくシバウラは頭を悩ませている様子だったが・・・・結局はそう言ってクミシマに同意した。

 そして、なんというかまあ彼の意見は、四人にとってそれほど重要なものなのか・・・・それからは、なし崩し的にクミシマに有利な方へと話は進んでいくことになる。

 

 「・・・・ま、いいけどよ。

 行くなら俺もついて行くぜ?

 さすがに、女子一人ではいかせられねえだろ」

 

 まずはキリヤが先頭に、彼女の意見を肯定する。


「私も行きます。お二人は、まだこの世界に来たばかりですから」


 その後、そう言ってトレイノルまでも好意的にとらえると、もはやミヤダイに入り込む余地はなくなった。


 

 

 「・・・ふ、ふ~ん。

 二人とも七瀬の味方なんだね?いいよ、私はエレナと居るもんっ」

 

 ふてくされるように、ミヤダイはエレナを抱きしめる。

 

 「えへへ、私も!お姉ちゃん好き!」

 「エレナぁ~」

 

 (・・・・)

 

 まあ、エレナがこの状況をうまく分析し意見することはないだろうが・・・一応、ミヤダイの仲間になったらしい。

 

 そうなれば――――。

 予想通り、最後は俺か。

 彼女たちは仲良さげにこちらに視線を向けるが、無意識のうちに俺はそれを避けていた。

 

 彼女の考えもわかるが・・・・・正直俺もクミシマの意見に賛成なのである。

 

 それは、もともと俺がガラムバトに行く予定だったというのもある。

 だがそれだけじゃない、彼女らの異常な能力は気にかける必要があるのではないだろうか?

 異世界から来たと言っていたが、それになにかの意味や因果があるとしたら・・・?

 

 早いうちに保護する必要があるだろう。

 もちろん、なぜか狙われていたエレナもだ。

 

 自分の中である程度意見を固めると、俺は特に反対することもなくクミシマの方を見た。

 

 「―――――今日出て行くつもりなのか?」

 「ええ、この後出るつもりよ。

 地図通りなら、暗くなるまでには着くはずだから。

 ―――――いいかしら?」

 「・・・・?」

 ここで意外にも、彼女は俺の許諾を求める。


 もしかすると、いやしなくとも・・・・だ。


 彼女だってまだ若い女性だ、どれだけ強く決断力があるように見えても・・・・心のどこかでは迷い、心細く思っているのだろう。

 

 少し黙った俺に、あまりいい印象がなかったのか・・・・彼女は上目遣いで心配そうにこちらを眺める。


 

 

 「はあ・・・・・」

 

 自分に嫌気がさす。

 一番しっかりするべきなのは俺のはずだ。

 だというのに、この前から俺は・・・迷惑ばかりかけているのだ。

 

 でもいまは彼女たちに頼るほかない――――。

 

 「・・・すまない」

 「ええ、気にしないで」

 

 俺の考えを呼んだように、彼女はそう小さくつぶやいた。



 


 (・・・・・・‼⁉)

 

 「――――え~~⁉

 ハルガダナくんまでぇ」

 

 彼女は俺の同意をかなり確信していたらしく、なぜか一層にうなだれた様子だった。

 

 (ごめんな、ミヤダイよ・・・)

 

 ――――こうして・・・・・多少の反対もありながらも彼女の案は、多数の同意で可決された。


 クミシマ、キリヤ、トレイノルの三人はガラムバトに向けて街を出発し、王国軍の助けを呼んで戻ってくる予定となったわけだが―――――。

 

 いま考えれば、もう少し慎重に行動すべきだったのかもしれない。


 襲撃者・異世界人・そして廃墟に取り残された謎の少女たち・・・数々の違和感を考察すべきだったのだ。


 


 


 


 このとき、クミシマたちと別れて行動したことがのちに、大きな影響を及ぼすことになる。


 


 


 *


 



 


 【聖王歴1877年10月11日】


 


 一週間後のことだ。

 結局追いかけるようにして、残った俺たちもガラムバトに到着した。


 その理由は二つある。

 

 簡単なことで、俺やミヤダイが完全に回復したことと、一週間たっても彼女らからの連絡がないこと。

 だったら行ってみようという、ポジティブなミヤダイの一言でこうすることが決まった。


 「――――意外と近かくて良かったよ」

 シバウラはそう安堵したように言いこぼした。

 たしかにここまでの道のりは、エレナを連れて半日ほどの距離で、想定よりはるかに短かった。

 

 「・・・・これからどうする?ハルガダナ」

 「そうだな、とりあえず――――」

 

 

 

 「―――とりあえずどこかお店入ろう~?

 ここ最近乾パンばっかで、お腹へったよぉ~」

 

 (・・・・・)

 

 ここでミヤダイは渋い顔で腹部を押さえた。

 日本人はそうらしいが・・・・陽気な彼女といえど、最初はそこからの音を露骨に恥ずかしがっていた。

 たしかにこの世界にもそういう類の羞恥はあるが・・・ミヤダイの心からは、もはやその感覚は消えてしまったらしい。


 「ロロカ・・・ここは渋谷じゃないんだから。

 それに、この世界のお金なんて持ってないだろ?」


 (・・・・‼)

 「うう⁉

 た、たしかに・・・」

 

 そう、町に着いたとはいえ俺たちの状況は変わらない。

 

 俺たちは諦めて、落胆の声を上げたミヤダイを連れ歩き始める。

 しかしここで、後方からの元気な女性の声に引き止められた。


 「おーい!困ってるならおいで?うちは、出世払いでもいいよ?」



 「「「――――え⁉」」」


 

 その言葉に、正直一同は耳を疑った。

 さすがの日本でも、こんな親切はそうあり得ないのだろう。


 「本当で――――」

 「―――そんな、悪いですよ!」


 ミヤダイと違って遠慮がちなシバウラは、彼女を押さえて女性に返答する。 


 「し、芝浦君~」

 「初対面なのに、失礼だろ?

 もう少しこの世界になれたら、俺がなんとかしてみるから・・・」


 彼らの小声会議も、店主にはなんとなく察しがついたようである。

 獣人族の彼女は、シバウラに自分の考えを伝える。


 「いやいや、いいんだよ。

 せっかくこの町に来てくれたんだ、サービス、サービス。

 みんな若いんだし、遠慮はいらないよ」


 「あ、ありがとうございますぅ!!」


 「よし!気合い入れて作るから、いっぱい食べな?」

 ミヤダイの声に女性は笑顔で答える。

 どうやら彼女の店は通り沿いにあり、ちょうど俺たちの会話が聞こえていたらしいとミヤダイと店主の会話からわかる。


 (しかしなんだ・・・・この違和感・・・・)

 


 「――――?

 ハルガダナ君?どうしたの⁇」

 「あ―――いや―――」

 

 動き出した一同の後方でしばらく立ったままの俺に、ミヤダイがそう声をかけてくる。

 よほどうれしいのか、彼女は足踏みを続けたままこちらに手を伸ばしているようだった。

 

 (サービス・・・・)

 人の好意と受け止めていいのだろうか?

 いいや少なくとも悪意は感じなかった―――悪い人ではない、そう感じるがしかし―――先ほどの店主に感じた、言い表せない違和感をまだ俺はぬぐえていなかった。


 「・・・・考えすぎか」

 

 半ば強引に納得する。

 というのもこれ以上待たせると、引きず手でも連れて行かれそうだったので、俺はいったん可愛らしい少女とともに店に入店した。

 

 「―――少し散らかっているけど、気にしないで頂戴」

 「はい!」

 

 (・・・・)

 

 異世界人がどう感じるかはわからない。

 店主の言う通り、綺麗ではないにしろ、古風でいい雰囲気の内装だ。


 最後まで困惑しながらも、シバウラもミヤダイに引っ張られるようにして足を踏み入れたようだ。

 

 

 

 「うふふ、定食ってなんだろ?

 楽しみだな~。

 ね、エレナ?」


 

 「・・・・」


 

 「・・・?

 ・・・エレナ??」

 「あっ!う、うん。

 ・・・・・そうだね」


 (・・・?)

 些細な言動に少し気が留まった。

 思い過ごしならいいが、ここ数日エレナは少し元気がないように思えるからだ。

 特に、あまりこの町に来たくなかったみたいに――――。

 

 

 

 「・・・エレナは、虫定食か?」

 「――――⁉

 ちょっと、セシルお兄ちゃん??」


 「もう、ハルガダナくん。

 まだそのネタ言ってたの~?」


 「はは―――ごめん、なんでもない」 


 俺の冗談にも応じ、二人とも笑顔で会話を続ける。

 まあ、少し長く歩いたからな。


 やっぱり、杞憂だったか?


 


 「・・・・・三人とも」


 そんな雰囲気のなか、シバウラだけはどこか落ち着かない表情で眺めていたらしい。

 彼は念を押すように声を上げる。

 

 

 

 「三人とも、本来の目的を忘れないでくれよ?

 俺たちは・・・七瀬たちを探しに来たんだから」

 

 (・・・・・ああ)

 「そうだな・・・」

 彼の言うことは正しいだろう。


 しかし――――。

 そうは言ってもまだ一週間。

 慎重な性格のシバウラと比べれば、俺の中ではそこまで危機感は大きくなかった。

 

 それはミヤダイも同じことのようだ。

 

 天然で直感を大事にする彼女も、このときはまだ笑顔を崩さない。

 「それはわかってるよ?

 でも、ここに来る道もすごく簡単だったし・・・町の人も優しいから。

 ひとまず、私は安心かな?」

 

 「それはそうだけど・・・」

 「それに、私にはなんとなくわかるんだ!

 七瀬たちは絶対、元気!

 シバウラ君は優しいけど、心配しすぎも良くないよ」

 

 元気づけるように笑顔で答えるミヤダイ。

 彼はそれを見て、無意識にため息をついた。

 

 「まあロロカのそういうところは、俺が一番わかってるんだけど・・・」

 

 二人のやり取りを見ていると、同じニホン人でもやはりここまで違うとは・・・・やはりどこか面白い。

 相性が悪いようで、たぶん二人は結構お似合いなのだろう。

 

 

 

 「ねえ、もしかしてお姉ちゃん達って―――」

 ここで、俺と同じく対面の席を眺めていた少女が思いがけない話題を提起する。

 

 

 

 「・・・・さあな。

 今度、クミシマかキリヤ辺りにこっそり聞いてみたらどうだ?」

 「え~。

 お兄ちゃんが聞いてよ・・・。

 なんか、すごく気になる・・・」

 

 (・・・・・)

 

 「いいかエレナ。

 こういうのは小さい子が聞いたほうが、意外と素直に答えたりするもんだ」

 

 

 そう、正直俺は二人の関係などあまり興味はない。

 それが恋愛的な関係だろうが、ただの友人だろうが・・・俺にとって些細な違いでしかないからだ。

 しかし、視線を合わせる少女はそれでは納得しなかったらしい。

 俺は軽く流したわけだが、エレナはまだ食い下がるようだ。

 

 「ふうん・・・なら、お兄ちゃんはどう思うの?」

 「・・・はあ?」

 

 (たしか、彼女は十歳・・・)

 年頃と言えば、そうなんだろうか?

 えらく興味津々なエレナに少し気おされながらも、俺はいちおう考察してみる。

 

 

 

 「そうだな・・・まあ。

 両思いでもなかなか進展しない、じれったい関係ってとこか」

 「ん~、たしかに!

 シバウラさん、あんまり積極的じゃなさそうだしね・・・」


 渋柿でもつぶしたような表情を見せたあと・・・すると少し考えた様子のエレナは、突然立ち上がって楽しそうに笑顔をのぞかせた。


 


 「じゃあさ――――――!」




 ・

 ・

 ・

 ・


 


 町の中心に向かって通りを進む。

 基本は木造の古い住宅が目立つが、なかには立派な建物もいくつか存在するようだ。


 特に、町の西に見えるひときわ目立つ高い建物。

 ただ歩き回るというのも非効率なので、俺たちはとりあえず・・・あれを目印にクミシマたちを探すことにした。


 

 「――――それにしても考えたな。

 二手に分かれて、あいつら二人だけの時間を作ろうなんて」

 「へしし、いい考えでしょ?

 多分シバウラさんは、なにか口実がないとデートとか誘えないと思うから」


 (・・・!

 なかなか鋭いな)


 「まったく、どこで身に着けるんだ?そんな知識を」

 感心―――いや、少し不思議でもあるな。

 辺境育ちの俺としては、エレナくらいの女の子とはあまり接したことがない。

 どちらにせよ、俺がそう問うと・・・彼女は立ち止まってこちらに輝く視線を向けた。


 「本だよ!

 あの町には難しい本ばっかりじゃなくて、小説もたくさんあったから」


 その瞳はどこまでもきれいで、こちらに純粋な喜びが伝わる。


 (そうか・・・・)


 「・・・そう言えば読んでたな。

 だったら、今度俺のおすすめも貸してやるよ

 隠すことじゃないが、俺も読書は好きだからな」

 「本当⁉やった‼

 ねえ、どんな本、どんな本⁇」


 よほどうれしかったのか、さきほど大人びた考察を見せたエレナも、このときは適正年齢に戻ったように喜んだ。

 何気ない会話に生気が宿る。


 トレイノルもそうだ。

 あんなところに残されて・・・・つらい経験もしたのかもしれない。


 俺はそう考えつつ、憐れむことはしない。


 これから、幸せになっていけばいい。


 そう思考を至しめると、ただ彼女の問に答える。


 「ああ、貧富の差を書いた純文学だよ。

 まあエレナには、ちょっとむずいだろうがな」


 「そんなことないから!

 絶対に貸してね、約束だよ⁇」


 「もちろんだ」


 「・・・・・」


 「・・・・?」


 「楽しみ、だな・・・」

 少しして・・・俺の横で、エレナは嬉しそうにそう呟いた。


 しかし、その後で彼女は急に歩みを止める。

 それまではスキップまで見せていたが、突然なにかを決意したように口を開いた。


 「あ――――セシル・・・お兄ちゃん、私ね?」


 


 しかし俺は、それを聞かなかった―――――――。



 「すまないエレナ。

 あとにしてくれ」

 


 なにか真剣な面持ちだったエレナを後回しにし、目の前の問題を優先したのだ。

 少し細い小道を抜けた先、広場で一人ベンチに腰かけている少女に目が留まったからである。


 「・・・やっと見つけたぞ」

 彼女は上下白の制服姿で、腰には細めの剣を差す。

 衣装はかなり変わったが、クミシマ・ナナセに間違いない。


 俺はエレナの左手を離すと、目の前の少女に向かって歩いた。


 「―――――ハルガダナくん、それに・・・・・・・・ッ‼‼‼

 どうして来たの⁉

 ・・・・待ってて、そう言ったはずよね⁈」


 彼女の声色は、怒り――――それを存分に含んでいるように聞こえる。


 (なんで―――⁇)


 「はあ?

 そんなに怒ることないだろ?

 ミヤダイも回復したし、一週間も音沙汰なしじゃ少し心配にもなる」


 「それは――――――ごめんなさい。

 でも・・・・それには理由があって――――」


 


 彼女がそう口ごもったところで、彼ら三人に新しく影が近づく。


 「――――あ!

 ハルガダナさんじゃないですかぁ‼」


 「――‼」


 


 


 後方から聞こえたその声には、聞き覚えがある。


 彼女はまるで待ちわびた瞬間が訪れたかのように、満面の笑みでそこに立っていた。


 「トレイノルか・・・無事でよかった」

 「すみません、驚かせちゃいましたか?」


 「少しな・・・・・すまん。

 エレナが狙われてるから、警戒してただけだ」

 「そうですか――――」


 そう言うと彼女は、すぐ隣にいる少女を見下ろした。


 一緒に育った姉妹のような存在って言ってたっけな・・・会えてうれしいのは当然か。


 こうしてみると、初めて会ったときを思いだす。


 二人で俺に食料を分けてくれたあのとき。


 (よかったな―――)


 ―――その瞬間、顔を上げたエレナの表情が脳裏に焼きつく。




 (なんで―――――――?

 お前の姉貴分だろ⁇)




 そこから理由を考える間も与えず、エレナの首からは大量の血が吹き出し・・・・彼女は赤い地面に倒れた。










 「―――――??・・・・????、、?」









 「・・・ぷ、あははは!

 ああ、そういう・・・・。

 ふたりとも、いい顔・・・・とても、可愛いですよ」



 「トレノイル――――――?」

 「あ、違います。

 私は、王国軍少将位【フリナフット・エデリア】」




 彼女は血で染まったナイフを放り、そう言った。


 「マーシャ・トレノイルが、今回皆さんと一緒だったのは作戦のため。

 ・・・・・・・具体的には、勇者四人の能力覚醒補助任務です」




 「――――は?」



 「ちなみに、エレナもそうですね。

 まあ、彼女に関しては脅して無理やりですけど。

 もともと捨て駒として使うつもりが、ハルガダナさん・・・あなたのせいですよぉ――――――?」






 「―――――――――この子がただの気持ち悪い獣人になっちゃったのは」





 一連の信じられない言動を、俺はまだ消化しきれていないらしい。


 言葉が出ない・・・・・・そのうえ、体も動かない。


 クミシマはこの事実を知っていたのか、ただうつむいて悲しそうな表情をしているだけだ。



 「・・・・・この作戦のポイントは二つでした」


 「・・・!」

 俺たちがなにも言わないのを見て・・・・いや、おそらくはそれを十分楽しんでから、彼女は再び口を開いた。


 「そして、勇者の能力が覚醒したいま――――やるべきことはあと一つです」

 そう前おくと、エデリア少佐はクミシマを指さす。


 「ニホンジンは、ぬるすぎる」




 (・・・・・ッ)

 クミシマに一層悔しそうな表情が残る。

 なあ、いったいなにがあった?

 なにが、どうなってるんだ⁉


 「・・・ハルガダナさんもそうです。

 あなた達五人が唯一犯した間違いは、獣人というゴミクズを手助けしたことです。


 ・・・・・あーあー、それがなければ完璧だったのになぁ!って」



 (こいつ・・・・さっきからいったいなにを――――⁇)



 「亜人族は人間族繁栄の強大な障壁であり、絶滅させるべき課題・・・。

 王国軍兵士に、その情けは必要ないんですよぉ!」


 訳のわからないことばかりならべて――――。


 「大体、お前が本当に王国軍兵士なんてことあるわけ無い。

 そうだ、よくも・・・偏った思想を持った異常者が・・・!」


 「やだなぁ、ハルガダナさん・・・本気で言ってますか⁇

 歳は一つ下ですけど、訓練兵のあなたから見たら階級的に、私はあなたの大先輩に当たりますよ。

 この作戦も、私が中心に指揮をしている・・・・さっき火蓋は切っちゃいました、もうそろそろですかね・・・・?」




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 (―――――――――――ッ⁉⁉!!)


 瞬間、大きな爆発音が数回鳴り響いた。

 続いて、街全体から無数の悲鳴が聞こえ始める。


 「なんだ!?」


 「手始めにこの街の掃除をします。

 ・・・安心してください。皆さんの偏った思想は、私たちがちゃんと治して差し上げますから!」



 少女は口角を上げ、歯を見せて狂気じみた笑いを見せた。




 *





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