第28話 大ピンチ!

☆☆☆休憩


数時間かけて倒壊した建物の街を進んでいく。直接被爆しなかった街では粛清魔法で消滅することもなく、死体は既に白骨化していた。


そのたびにオリビーは辛そうな顔をしながらも、魔法を使い続け進んでいく。


「本当に……七年前までは人が健やかにくらしていたんだ……」


「そうですわ。それも全部帝国の魔法がなければ……」


やがてクレーター付近に辿り着くと魔法濃度も一層濃くなっていく。周囲は魔法の霧によって昼か夜かも分からなくなっていた。だが……これ以上進むのは……


「はぁ……はぁ……」


当然光属性魔法を使用し続けたオリビーに疲労が訪れる。


「休憩した方が良いと思います。ここまで魔法の行使はオリビーちゃんも初めてですので……」


「そうですわね……引き返しましょう……安全な場所で仮テントを設営しますわ」


「まだ私はやれます……はぁ……はぁ……」


「今日の成果としては十分ですわ。オリビーさん。貴方が倒れてしまったらこれ以上進めなくなります」


「分かりました……」


こうして僕達は一度来た道を引き返した。倒壊の心配がない建物を選ぶと、ロムリスの部下たちが慣れた手つきでテントを設営していく。


見たところ四人で睡眠できるテントが二つ作られる。そうなれば……


「私はティエラリア様の隣を所望します。一緒に寝ましょう。抱き枕の代わりになりますよ」


「ロムだけは部下さん三人達と寝てください」


「……はい? 何故私があの人たちと……? 普通に考えて学生が四人で良いでしょう」


いや、どう見てもラーリアの判断が正しい。


「どう考えてもあなたはティアさんに変なことする気ですわ。主人としてそんなこと見過ごすわけにはいきません。オリビーさんの回復も遅れます。これは命令ですわ」


「な、何を! 私がそんなことをする人に見えるとでも言いたいのですか!」


その場にいる一同が頷いた。


「……命令ならば……納得するしかありません……」


その後部下達が建物に防護結界を張り巡らせた。と言っても、オリビーの魔法で浄化済みなので、心配はないのだが、万が一のための結界だろう。


これで僕達は防護服を脱ぐことが出来る。


「あぁ……窮屈だった。凄い暑くて蒸れるし……涼しい……」


真っ先にオリビーが防護服を脱ぐ。制服の上から着れるが、やはり皴になっているな。


「帰ったら制服の皴を直しますね」


「ありがとう~~~ティアちゃん~~~」


「しかし、エストレイヤ生徒の光属性魔法は素晴らしいでありますね……ここまで探索が進んだのはあなたのおかげです……ありがとうございます」


ロムリスの部下の一人がオリビーに話しかける。


「いえいえ、私なんかそんな……この魔法の効率を教えてくれたのはティアちゃんですから……」


「そうですか……オルコット生徒も状況の分析力が素晴らしく……っひ!」


「私のティエラリア様に話をかけて良いとでも?」


「ロムリス様のになったつもりはないのですが……」


少し気が抜けた会話をすると、別の部下が部屋に戻ってくる。


「仮設浴場の準備が出来ました。皆さんご一緒に入りましょう」


「「え!!!!!」」


性別を知るオリビーと僕は一緒に声を出した。


☆☆☆大浴場


どうやら、この施設に残されていた浴場を魔法の力で風呂に見立てている。


確かに防護服の中は暑く、汗も大量にかいて不衛生であるが……まさか風呂に入るなんて想定外だ。軍人なら数日間風呂入らなくても大丈夫な訓練を受けているはずだ。


なのにどうして風呂に入る必要がある。僕だって風呂に入らない覚悟をしてきたつもりだ。正直に言えば入りたいけど。


でも風呂に入るということは服を脱ぐことになる。そうすれば当然……僕の性別がバレる……それだけはあってはならない……だと言って風呂に入らないのも不審がられる。


ロムリスを引き合いに出してみるか?


「えっと、ティアさん何か考えていますけど……お風呂に入らないのですか?」


「その、ロムリス様が……」


「あ、そういうことでしたら元々ロムは別ですから心配御座いませんわ。ささ、一緒にお風呂に入りましょう!」


ロムリスは別に入れることはありがたいが、他の人達とでもいっしょに入るのは……


「あ、あの……ティアちゃんは……(ごにょごにょ……)だから、ラーリア先輩と一緒に入るのが、恥ずかしいみたいで……」


「で、で、ででででですわ!?」


そこでオリビーはラーリアの耳元で何かを囁く。


「そ、そうだったのですわね……失礼いたしました。あ、私は出来るだけ見ないようにしますから……確か許婚と聞いていましたのに……ティアさん。私は軽蔑しませんから安心してください……」


なぜか、ラーリアは僕のことを気遣いだした。


「一体何を言ったのですか?」


「多分これで大丈夫だと思うけど……その、デリケートな設定を勝手に追加させてもらったから許してほしい……」


一体どんな設定だというのだろうか……


「ティアさんは新星……ティアさんは新星……」


ラーリアはよく分からないことをつぶやいているが……一体何なのだろうか?


「とにかく、私も手助けするから、ティアちゃんも気を付けて……」


こうして僕達は脱衣所へ向かい服を脱ぐ……オリビーは大丈夫と言われてもロムリスが覗いてる可能性もあるし、一応は……


「シャドー・カーテン」


僕の身体を隠すように覆い、制服を脱いでいく。タオルを巻いて……っは!?


危ない。胸にタオルを巻いて出てくるところだった。あれ、でも、男の娘の場合タオルは胸まで巻くのか? それとも腰だろうか?


こっそり、オリビーのを覗くが……


「……え」


「え」


オリビーと目が合うと、タオルを巻いていなかった。つまりオリビーのアレを生で……


声を出したら怪しまれると、僕もオリビーも気付いていた。だからこそ、オリビーの顔は真っ赤になっている。


「「~~~~~!!」」


落ちつけ……ティエラリア・オルコット。このようなピンチいくらでもあったはずだ。


こんな状況で顔色一つ変えないことなど造作もない。


思い出せ……あの時の絶望を、後悔を……憎しみを……!


思い出すんだ!






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【休載中】百合と呼ぶにはあまり残酷だ 空現実 @karano-real

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