第27話 エーネスト跡地に到着

☆☆☆吐き気を超えて


魔道車に揺られ外の景色を見ていると、ごく一般的な共和国の風景が映し出される


共和国内では女装をしていない男性や女性の移住が許されている。そのため愛し合った二人から子供が生まれ、平和な生活を過ごすことも珍しくはない。


と言っても、女装をしていない男性の魔法的な価値は低いため、戦争ではまるで役に立たないが……


帝国と比べても男女の関係性は良好であるが、男の娘が存在している時点で少し歪にはなっている。


共和国は男女の人口が約八対二であり女性人口が圧倒的に少ない。それもそのはずだろう。


帝国ならば女性は優位に過ごせるのだ。わざわざ移住する必要があまりない。それか、どうしても添い遂げたい男性と一緒にこの国に亡命するかだ。


帝国と共和国には大きな差が見える。戦争は


今僕は景色を見ながら、オリビーの背中を擦っている。


「大丈夫ですかオリビーちゃん……」


初めての魔動車移動でオリビーは三半規管を乱していた。


「うぅぅぅ……思ったより揺れていて……気持ち悪い……」


「大丈夫ですかオリビーさん。こんな時は私の華麗なダンスでも見て元気を出してくださいまし!」


するとラーリアは車内でぐるぐると回り出す。良く揺れ動いている中で転ばずに動けるな、かなり体幹が強い。


「うぅぅ……ぐるぐる回ってる……あぁっ……私ダメかも……」


「ラリー様。なにをなさっているのですか! 吐き気がある相手に回る動きをしたら、火に油を注ぐのと同じです! 仕方がありません……はい。オリビエ様。ティエラリア様の顔をよく見てください……」


すると、オリビーは僕の顔を見る。


「……あ、ティアちゃん……かわいい……」


「ティエラリア様……微笑んでください……そうすれば、オリビエ様は治ります」


「え……はい。ニコリ」


本当に治るのか……? ロムリスに言われた通りに僕は笑顔を見せる。


「……天使だ……天使がここにいる……あ、吐き気がなくなった! ティアちゃんの笑顔には癒しの力が込められえいるんだよ……新たな発見だ……」


本当に治った。オリビーはどうなってるんだよ。僕の笑顔を見ただけで回復するなんて……


「え、気持ち悪くなれば、ティエラリア様の笑顔がもらえるのですか? うぅぅぅぅ……気持ち悪いです……チラッ」


「明らかに嘘ついていますよねロムリス様。貴方の場合乗り慣れているではないですか」


だから何なんだよこの人……


「……そうですが……その緊張で夜眠れなくて」


「ちょっとロム! 嘘をつくのを辞めなさい! 昨日は熟睡してましたでしょうに……ティアさん失礼ですわ!」


「失礼いたしました。お詫びに私を踏んでください。頭を!」


するとロムリスは僕の前で土下座をする。


「ロムリス様の場合それはご褒美になりますよね、私でも分かりますよ」


「……うぅぅ。踏まれたかった……」


図星だったようだ。


☆☆☆光属性魔法の有用性


数時間後。くだらない話をしていたら、エーネスト跡地の近くになり景色は一変し、重い空気となる。


オリビーは当然。ラーリアとロムリスも、先ほどまでのふざけた空気ではない。


ロムリスに関しては普段とは想像もできないくらい気を引き締めている。


仮にも共和国最強の魔法師であるのは間違いない。むしろ最強でなければただの変態だろうこの人。


「隊長! エーネスト跡地に到着しました!」


部下の一人がドアを開けると、地面に直径約一キロ。深さは百メートル満たない大きなクレーターがあり、周りの建物は倒壊している。


ここは紛れもなくかつての大都市エーネスト跡地だ。七年経った今でも未だ魔力による黒い霧が漂っていた。


昼間なのに空気が薄暗く、夜と錯覚してしまいそうになった。既に防護服への着替えは終わり、その地へと足を踏み入れる。


「ここが……エーネスト跡地……酷い……こんなことって」


これは帝国が放った魔法による災害だ。軍同士の戦争であれば民間人に被害が出ることはあまりない。


しかし、大規模粛清魔法の無差別攻撃は国民が犠牲になった。その中には幸せに暮らしていた人だっていたはずだ。それを一瞬で無へと変えたのだ。


「直接見るのは初めてですか、オリビーさん。よく目に焼き付けておきなさい……もし共和国軍に入れば、大規模粛清魔法これを行った相手と戦うことになるのですわ……」


自分の兄を失ったラーリアも、帝国のことを激しく憎んでいる。


「皆さんは二人の護衛をお願いします。と言ってもあくまで保険ですから。何かが起きれば命を懸けて守りなさい。共和国軍人の名に懸けて」


「「「っは!」」」


部下たちはロムリスの命令で囲みながら警戒態勢に入る。


「オリビエ様それでは、事前に話した通りにお願いします」


「は、はい……『ライトニング・ホープ』……!」


すると、オリビーは光属性魔法を使う。複雑に流れていた黒い霧の魔法がみるみる掻き消されていく。


「凄い……これが光属性魔法の力……我々では不可能だった地域一帯の魔法が相殺されていく……」


部下の一人が驚いている。それもそうか……光属性魔法自体がこの国では希少なものだ。


僕の目から見ても、この場に張り巡らされた無数の魔法は複雑なものだ。やろうと思えば相殺できるかもしれないが……時間はかかるだろう。


「そ、そんなに凄い事なんですかね。私のやっていること……」


オリビーは気付いていない。


「この黒い霧を吸えば明日夢病になるとされています。防護服なしの探索は自殺行為ですよ、オリビーちゃん」


「そ、そうなんだ……全然気づかない」


「オリビーちゃんが全ての魔法を打ち消している。国の魔法研究師でもかなり時間が掛かる作業なんですよこれは。一つ一つの魔法を理解する必要がありますから」


「……でも私の魔法ならその過程を飛ばして、打ち消すことが出来ると……光属性魔法って凄いんだね……」


僕はうなずく。その後も周囲に散らばる黒い霧を打ち消して進んでいった。




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